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指定暴力団山口組系のヤミ金融事件で、スイスと日本の捜査当局に凍結・押収されている五十数億円の行方が懸念されている。これらの資産を没収することも、被害者の救済に充てることもできずに、ヤミ金融組織に戻さざるを得なくなる恐れがあるというのだ。不明朗な金の正体をわかりにくくする国際的なマネーロンダリング(資金洗浄)に、法制度が対処しきれていない実態を専門家は指摘する。
警視庁の調べで、山口組五菱会(2代目美尾組に改称)によるヤミ金融組織を統括していたのは、出資法違反と組織的犯罪処罰法違反の罪で起訴された梶山進被告(54)とされる。同被告の名義で、スイスにあるスイス系銀行の口座に6100万スイスフラン(約53億円)が預金されていた。現在スイス検察当局がマネーロンダリングの疑いがあるとして凍結している。
2月上旬、警察庁と警視庁の捜査員が凍結資産の実態把握のためスイス検察当局を訪ねた。スイスの検察官は、この預金とヤミ金融組織との関係を示す資料の提供を求めた。この金が、犯罪に直接結びつくものかどうかを見極めるためだ。
宮沢浩一慶応大名誉教授(刑法)によると、口座の金がスイス刑法で罪となる行為で得られたものと判断されれば、スイス政府でこの資産を没収できる。犯罪組織に関与した者の財産も没収の対象になりうるとされる。
しかし、この資産は複数の経路で入金されているといわれ、その経緯や出どころは未解明で、犯罪とのかかわりを立証するのは容易でない。立証されない場合は凍結しておく理由がなくなり、資産が梶山被告に戻る恐れがあるという。
五菱会事件では、組織全体で数千億円の収益があったとされる。だが梶山被告の逮捕容疑は(1)主婦ら13人から法定金利を大幅に上回る金利415万円を受け取った(2)犯罪収益など約2億円あまりを都内の貸金庫に隠した、にとどまった。被害者の数が膨大で捜査には限界がある。
スイス検察当局は「没収できれば一部を日本に渡してもいい」という意向も示しているとされるが、「それ以前に、犯罪収益と認定できるかどうかまったく分からない」(警視庁幹部)という。
警視庁や各地の県警が押収した約2億8000万円についても、一部が梶山被告側に戻る可能性がある。
押収は、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)などを根拠に行われた。同法の規定では、犯罪収益を含む資産が隠匿されていた場合は、全額を国が没収できる。
ところが押収金の中に違法な高金利によって被害者から得た利益も数千万円含まれるといい、こうした犯罪被害財産については没収できない。本来被害者が犯罪組織から取り返すべき財産を、国が没収するべきでないという理由からだ。
捜査幹部は「苦労して探してきた犯罪収益をヤミ金に返すことだけは避けたいのだが」と話す。
金が梶山被告側に戻ってしまった後に、多重債務者である被害者が裁判などで金を取り戻すのは容易でない。
組織的犯罪処罰法の制定にかかわった中央大の渥美東洋教授(刑事法)は「制定時に指摘された法の欠点が表面化している。米国のように国がいったん財産を没収し、被害者に配分するなど、より被害者救済ができる法律に改正すべきだ」と話している。
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梶山被告は16日に東京地裁で開かれた公判で、起訴事実を否認した。(03/17 06:11)