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2004年03月17日(水) 00時00分

逆管理される公安委 警察一家の“お客さん” 東京新聞

 北海道警の報償費不正支出問題で、警察庁長官は「自浄能力を発揮する」と断言した。しかし、道警や静岡県警のカラ出張問題の一連の経緯をみると、「自浄能力」には疑問符も付く。本来、警察のお目付け役は公安委員会のはずだが、「管理」する側が「管理」されているとの指摘も。公安委員の役目とは−。

■視察『遠慮ください』 議事録『ありません』

 「公安委員になり、県内二十七ある警察署を視察して回ろうとしたら、県警から『ご遠慮ください』と言われた。なぜだと言うと、『そんなことをした公安委員がいないから』という回答だった。個人的にでも行くよというと、結局、応じてくれた」

 これは一昨年開かれた日弁連主催のシンポジウムで、パネリストとして参加した山口県公安委員(現委員長)の末永汎本(ひろもと)弁護士が披露した体験談だ。

 元検事でもある氏が委員となったのは一九九八年で、現在二期目だ。当初は、驚きの連続だったという。

 「就任の際、それまでの会議の状況を知りたいから、会議録、議事録を見せてくれと言ったところ、『議事録はありません』という。そんなばかな会議があるかと思った。委員会規則を改正した」「委員としてやってきて一番感じたのは、警察というのはいかにも中央統制が強いところで、何かと言えば、警察庁のご意見を聞く、警察庁のほうもその指示、命令をする、こういう体制がある」

 長野県公安委員の河野義行氏は「委員になって一年半で、委員会の流れが分かった程度。道警の問題は全体を知らないので、何とも言えない」としたうえで、自らの経験を話す。河野氏は田中康夫知事の発案で一昨年七月に就任したが、警察の推薦で地元名士が就任する慣例から反発もあった。

■「警察の報告は信頼するしか」

 警察へのチェック機能としての改善を期待されての就任だが、公安委員は非常勤で、委員会が開かれるのも週に一度だ。「現場に行く機会も少ない。どれだけ、(警察行政を)把握できるか、という問題はある。長野の場合は、一時間半の委員会で計二十案件くらい、報告を受けたり決裁をしたりする。上がってくる報告が間違っているとは思わないが、『警察の管理』という時に、全部を把握できているとは言えないかもしれない」

 地方の公安委員の実態については、「常勤ともなると受ける人がいないかもしれない。国家公安委員の報酬は二千六百万円。長野では月額十九万二千円、年間で二百三十万円くらい。一般の人はなりたがらないでしょう」と話す。

 東京新聞が各都道府県公安委員会のホームページなどから調べた結果、都道府県公安委員百六十三人の職業は、会社役員が六十八人でトップで、教育関係者、金融関係者、医師が続く。最高年齢は八十三歳、平均でも六十六歳だ。

 警察法では、国家公安委員会は警察庁を、都道府県公安委員会は都道府県警察を「管理」することになっている。二〇〇〇年には同法改正で、警察事務の執行が法令に違反している疑いなどがある場合、是正、再発防止のための措置を指示する「監察指示権」も明記された。しかし、実情は「管理」「指示」とはかけ離れているように見える。

 道警報償費疑惑は、内部告発で事態は大きく動いた。静岡県警警務部総務課が認めた九百四十万円余のカラ出張問題も、同県オンブズマンネットワークが情報開示請求、訴訟を重ね、七年半かけて勝ち取った“自供”だった。

 この間、静岡県公安委員会が、調査を指示するなど、疑惑解明に取り組んだ形跡はない、と憤るのは、同オンブズマンの服部寛一郎代表だ。「公金詐欺をやっていたんです。返せばいいと言うなら、警察はいらない。監督する公安委員会だっていらない。公安委員は名誉職でしかない」

 県警の発表後「誠に遺憾の極み」などとする公安委員長コメントが発表されたが、静岡県の公安委員長は大学教授で、以前には県の情報公開審査会の委員や委員長も長く務めていた。

 「情報公開審査会が『県警の情報の全面非開示は妥当』と言う判断を下したときには審査委員だった」(服部氏)。つまり、情報を開示しなくていいといった同じ人物が、この情報で明らかになった事実に対し「誠に遺憾」などとコメントしていることになる。

 「管理者」としてふさわしくない振る舞いは、県警が開示した食糧費などの資料からもほのみえる。九五年、静岡市内のホテルで開かれた関東管区公安委員会連絡協議会の昼食に約百五万円が支出された。三千円の洋風会席膳とコーヒーそれぞれ五十八人分に加え、すしやビール、ウイスキーも注文されている。参加人数が五十八人だったとすると、一人あたり一万八千円になる。同県警では一人あたり五千円を超える支出は「社会通念に照らして支出額が高く、妥当性に欠ける」として返還する方針だが、この基準を大幅に上回る飲み食いを、公安委員自らがしていたことになる。

■『プロの法律家必要』『組織改革し独立を』

 服部代表は「公安委員会には期待もしてないが、もし続けていくというなら、別の仕事を務め上げた人が、閑職で務めるようじゃだめだ。組織の面でも事務を警察職員がするのではなく、切り離さないといけない」と提言する。

 果たして、今の公安委員会の制度で、報償費の不正などをチェック、あるいは防げるだろうか。

 河野氏はこう話す。「公安委員として警察本部長に対して調査の指示を出したものについて、本部長はありのままの報告をする義務がある。仮に虚偽の報告なら、相当な処分を受けることになる。基本的には信頼関係がないと成り立たない。その信頼が崩れていたことが明らかになったのが道警の問題ではないか」

 その上で、委員の資質の問題と現制度の限界に言及する。「どういう費用がどう使われるか、という資料は委員会に出される。ただ、不正の告発があれば別だが、それがない中で領収書が正規のものか、本当に渡したのか、一件一件調べるとなったら常勤でも時間は足りない」

 末永氏は「制度改革も大事だけれども、制度の中に入って、ある程度能力のある人がやる気を出してやれば、相当に改革改善ができる。その方がてっとりばやい」としたうえで、「行政手続法とか聴聞手続きとか、シビアな法律事案が増えており、いろんな意味で法律家を必要としている。多くの弁護士が中に入って、発言することに積極的であってほしい」と主張する。

 報償費の不正支出問題は今後も全国的に広がっていく様相だ。国家公安委員会をはじめ、公安委員会の「実力発揮」が期待される。

 警察の不祥事などを追及している森卓爾弁護士はこう提言する。

 「公選制など民意を反映する選任方法にしたうえで、公安委員会を独立した組織にし、独自の事務局を持たせる。現在の非常勤から常勤として、その代わりに報酬もきちんと出し、警察職員ではない独自のスタッフ、できれば法律の専門家などをそろえることが必要だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040317/mng_____tokuho__000.shtml