2004年03月12日(金) 06時53分
<三菱ふそう>対応放置に不信増幅(毎日新聞)
三菱ふそうトラック・バスは11日、92年以降相次いだ大型車のタイヤ脱落事故について、「設計上の問題」を初めて認め、国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出る方針を決めた。99年にも同社製のバスが同様の事故を起こしたが、同省には「類似の事故はない」と報告していた。「欠陥」を放置した企業体質が厳しく問われている。
「これまで十分な報告がなかったことは極めて遺憾」。国交省の風岡典之次官は11日の会見で、「整備不良」との説明を続けてきた三菱ふそうの対応を批判した。さらに「設計上の問題も含めた原因究明をお願いしてきたが、会社側がどのような認識だったか聞きたい」と述べ、不信感をあらわにした。
同社製の大型車で、タイヤと車軸をつなぐ金属部品の「ハブ」が破損する事故は、92年以降57件に上っている。そのうち、タイヤの直撃を受けて母子3人が死傷した横浜市の事故(02年1月)など51件は、車両からタイヤが外れた事故だった。
99年6月には、乗客9人を乗せて時速75キロで走行中の路線バスの前輪が突然外れるという事故が広島県内で発生した。それ以前にハブ破損が既に15件起きていた。同社は「バスでは初のケースで、隠すつもりはなかった」というものの、当時の運輸省に「類似事故なし」と報告。原因を「整備上の問題」と説明していた。
2年後の01年には高知県などで観光バスのハブが破損する事故が2件続いたが、同社はいずれも事故の発生自体を同省に報告していない。
大惨事につながる可能性があった広島の事故を詳しく調べるために、神奈川県警は今年1月、「広島三菱ふそう自動車販売」を捜索した。関係者は「公共交通機関なら整備不良とは考えにくい。この事故を機に三菱ふそうがきちんと対応していれば、その後の事故は防げたかもしれない」と指摘する。
同社は11日の会見で、「(整備不良と考えにくい)ハブの亀裂が見つかったのはいつか」と聞かれ、「02年の3月から6月あたりにつかんでいた」と述べ、少なくともこの時点で構造上の欠陥がある可能性を認識していたことをうかがわせた。だが、対外的にはその後も「原因は整備不良」との見解を変えなかった。
【武田良敬、木戸哲】
◇
三菱ふそうの母体だった三菱自動車は00年夏、長年リコール隠しを続けていたことが発覚。ブランドイメージが急落し、経営は一気に傾いた。三菱自のロルフ・エクロート社長は「二度と品質関連の問題を起こさない」と誓ったが、信用の回復は難しく、同社の業績は大手5社の中で「独り負け」が続いている。
今回リコールの対象になったトラックのハブは「自主回収・修理」で対応していた。「かかる費用や手間はリコールとほとんど同じ」(トラックメーカー)。なぜ、三菱自(現三菱ふそう)は、もっと早くリコールを申し出なかったのか。
「イメージダウンを懸念したのでは」(業界関係者)との見方は根強い。自主回収は会社の善意に基づく行為だが、リコールは会社の責任が問われる。11日の会見でも、同社は「複雑な理由が絡み合った中で、設計も原因の一つと判明した」(ビルフリート・ポート社長)と、原因を断定しない説明に終始した。
三菱自の過去の教訓が生かされなかったのは「乗用車部門とトラック・バス部門は実質的に別会社で、経営が分離していたから」(三菱自幹部)との弁明もある。三菱自は00年10月に独ダイムラークライスラー傘下に入ったが、前年の99年、スウェーデンのボルボからも出資を受けている。ボルボは、三菱自からトラック・バス部門を分離して経営統合することが前提。このため、00年には乗用車とトラック・バスを社内分社し、経営分離を進めていた。ボルボは撤退したが、03年1月にはトラック・バス部門は完全分社した。
とはいえ、三菱自は依然、ふそうの大株主。横浜市の死傷事故があった02年1月はまだ同じ会社だった。同社の02年3月期は黒字に転換するなど経営がやや上向いていた時期だ。「問題を大きくしたくなかったのでは」(国交省関係者)との疑念もぬぐいきれない。
【前川雅俊】
横浜市の母子3人死傷事故で神奈川県警はこれまで、ハブ破損の原因は、構造的欠陥の可能性があるとして、警察庁科学警察研究所に事故車両のハブの鑑定を依頼するとともに、昨年10月に三菱自本社や車両開発の研究所など関連施設を家宅捜索した。
県警は関係者の事情聴取も進め、「整備不良が原因」とする三菱側の主張では説明がつかない点などを追及してきた。今年1月末にも連日、関係先を家宅捜索し、膨大な資料を押収して分析を進めている。
2年余りの捜査は難航していただけに、今回の三菱側の「リコール発表」について捜査幹部からは「捜査には追い風」との声も出ている。【安高晋、広瀬登】(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040312-00000142-mai-soci