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日本相撲協会の本拠地・両国国技館(東京都墨田区)は、約一万一千人の観客を収容できるが、半数以上は一階の大半を占める升席の客だ。升席は四人用で企業接待にも利用されるが、観戦は午前中から夕方まで長時間におよぶため、酒などの飲食はもちろん、喫煙も認められている。
昨年五月に分煙対策の徹底を求める健康増進法が施行されて以来、プロ野球球場の内外野スタンドでも喫煙を制限する動きが強まった。だが、大相撲の場合、独特の観戦スタイルが「江戸時代から続く伝統文化の一端」であることを背景に、同協会は従来通り升席に灰皿を設置してきた。
同情報センターの渡辺文学代表は、同協会の北の湖敏満理事長あてに禁煙を求める要望書を提出。「たばこの煙は、吸わない客や土俵の力士、審判の体にも悪い。吸い殻は汚いし、喫煙は相撲関係者が口にする『神聖な土俵』という言葉に反する行為だ」と批判する。
しかし、若貴兄弟の引退後、相撲人気が陰りを見せる中、場内禁煙にした場合の入場客数への影響は読めない。協会の伊勢ノ海裕己茂・総合企画部長は「長年の慣例なので、すぐにどうこうという訳にいかない。(禁煙は)時代の流れなので検討はしなければならないでしょうね」と慎重だ。
この問題は、本場所会場となる大阪府立体育館や愛知県体育館、福岡国際センターの関係者も関心を寄せる。各会場は升席の喫煙を認めているが、分煙対策も模索しているからだ。
大阪府教育委員会は、府立体育館の分煙対策として、今月十四日から始まる春場所を前に、廊下などに十四台の空気清浄機を設置する。だが、土俵を設ける競技場内に設ける予定はないという。
愛知県教委は、大阪府などと同様に主催者の協会の判断に任せている。ただし、今回の嫌煙団体の反対もあるため、「禁煙で客離れが進まないかという心配もあるようだが、今後のことは協会と調整したい」と話す。
渡辺代表は一九九〇年にも一度、協会へ同様の申し入れをしたが、当時はたばこに寛大な時代であり、協会側に軍配があがった。
このときの行司役は、東京消防庁だった。
屋内の興行場の観客席は、火災予防条例で禁煙とされているが、例外規定もあり、国技館は防炎対策を条件に特例で喫煙可能になっている。同庁査察課は「升席の座布団やカーペットは燃えにくい防炎処理が施され、避難誘導の態勢もしっかりしているので条例上の問題はない」。都内で同様の特例は競馬、競艇場のロイヤル席があるだけ。
それでも、最近は防災上の問題がなくても健康面から、官公庁や企業は分煙対策に真剣に取り組む。千代田区のように条例で歩行喫煙やポイ捨てを取り締まる自治体も増えている。都も、興行場に喫煙所の設置を義務づける基準を見直し、事業主が映画館などを全館禁煙にできるようにする条例改正案を検討中だ。
文部科学省競技スポーツ課や厚生労働省生活習慣病対策室も「健康増進法は努力規定だが、(副流煙の)受動喫煙の防止には国民の関心が高いので、升席についても考えてもらいたい」と対策の必要性を指摘している。
元日本相撲協会診療所内科医長の林盈六(えいろく)さん(78)は「たばこの副流煙は発がん物質があり、土俵上の力士の健康を害する。相撲ファンの中には『煙くて不衛生だから見に行かない』と言う人や、たばこの火で着物を焦がされた女性もいる。升席の喫煙は早くやめさせるべきです」と強調する。
十四年ぶりの取り組みは、どうやら健康増進法という強い味方を得て、“伝統”という徳俵に踏みとどまるスモーカイ(角界)をノンスモーカーが寄り切る勢いだ。
文・阿部博行/写真・松崎浩一
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