2004年03月10日(水) 15時16分
社説1 独禁法改正を今国会でぜひ実現せよ(日経新聞)
談合への処分強化などを目指す独占禁止法改正に経済界や自民党からの反対が強い。日本経団連の奥田碩会長は公正取引委員会の案には問題があり「拙速に法改正しようとするなら容認できない」と述べた。公取委と経済界との溝は深くすぐには埋まりそうにない。事実上、来年以降に先送りせよということだろうか。そうなれば国際的にも遅れている日本の競争政策はまた足踏みする。
「競争力を付けるには競争を促すのが1番」というのが経済学の定説だ。日本の場合は多すぎる建設業労働者を福祉など社会的ニーズの高い分野に移したり、通信事業への新規参入を盛んにして産業構造を高度にし、持続的な成長への道筋をつけるためにも競争促進が急務である。
公取委の案は談合やカルテルへの行政制裁である課徴金を大企業では対象商品の売上高の6%から10%へ引き上げるほか、談合などを告白し捜査に協力した企業への課徴金減免導入など不正防止のための「措置体系見直し」のほか、電線や通信回線を持つ企業が新規参入企業の事業を妨げたとき速やかに排除する独占・寡占規制強化の2本柱だった。
このうち独占・寡占規制の強化は政府部内や与党との調整が間に合わないとして公取委自身が取り下げてしまった。様々な事情があったとはいえ、公取委の失態であり、残念である。ところが、残る課徴金引き上げなど「措置体系の見直し」も風前のともしびに近づいている。
経済界の反対理由の一つは課徴金引き上げの根拠が明らかでないという点だ。公取委によればカルテルで平均約12%、入札談合で同18%の不当な利得を得ているとみられる。それが正しければ10%への引き上げは妥当だ。実際には30%以上の不当利得の例も多く、10%でも低すぎると言って過言ではない。
また課徴金を高くすると制裁の性格が濃くなって刑事罰との2重罰となり、憲法に違反するという反対意見も根強い。それに対し公取委は刑事罰の半分を課徴金から差し引き実質的に2重罰を避ける方向で、内閣法制局とも調整を済ませている。
そもそも違法行為に対する欧州連合(EU)の行政処分は日本の5—6倍重い。刑事罰で対応する米国では欧州より重い刑の例がざらにある。それほど重くしなければ不正行為を抑えられない。その事実は欧米の例を見なくても、“談合天国”日本の国民がよく分かっているはずだ。「小泉改革」の柱の一つで、今年中に国会に提案すると公約した独禁法改正をうやむやにしてはならない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040310MS3M1000I10032004.html