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■特養ホームもメニュー変え
「街全体が隔離されている雰囲気に包まれている」
丹波町で二例目に鳥インフルエンザ感染が発覚した「高田養鶏場」から、北東約一キロにある特別養護老人ホーム「丹波高原荘」の高山茂樹事務局長は、町の様子をこう語った。
■『来訪自粛を』仕事に支障も
同養鶏場は町役場や学校などが集まる市街地にある。四日は感染鶏処分や防疫作業のために自衛隊が街中に集まり、警察官の警備も強化され騒然とした。住民の不安は募る。
「明日は公立高校の入試だというのに、一番重要なときに、とんでもないことが起きて…」。同養鶏場の北側に隣接する蒲生野中学校の石川善博教頭は憤る。
同校は四日に一、二年生の学期末テストが予定されていたが、三科目の試験を一科目に変更し、午前九時から緊急の全校集会を開いた。石川教頭は「校長が『普段の生活でしっかり勉強してほしい』とあいさつしたが、保健所から職員が訪れて健康診断したり、明らかにいつもとは違う事態。問題の養鶏場を通らないよう通学路を変えたり、部活動を中止したりと対応に追われているのが実情。一刻も早く平穏な日常が戻ってほしい」と訴える。
前出の高山事務局長は「八十歳以上のお年寄り五十人が入所しているが、全員が鶏肉と卵に拒否反応を示している。今日からメニューを変えた。町の有線放送が朝から、やたら流れているのも不安をかき立てる」と弱り切っている。
同養鶏場から北へ約一・五キロの京都大学大学院農学研究科付属牧場のある技官は「うちは肉牛研究で鳥類は飼育していない。それなのに、よその研究所からは『この時期に来るのは遠慮してほしい』と言われるし、自粛している。ウイルスの感染はないが、間接的に研究活動に重大な支障が出ている」と困惑する。
その上でこの技官は「京都府の対応も後手後手にまわっている。自衛隊の派遣が決まった時点で、既に自治体の対応できる範ちゅうを超えた非常事態に地域は陥っている」と指摘する。
対策本部を設置する京都府は先月二十六日、「浅田農産船井農場」での大量死を通報する匿名電話を受けその翌日には、農場を立ち入り調査。同二十九日には同農場に感染鶏の殺処分命令を出した。
だが、大量の感染鶏の処分に対応できず、府警機動隊だけでなく自衛隊にも出動を要請する事態になった。自衛隊は百二十人、地下鉄サリン事件で使用した除染車も投入する物々しさだ。さらに三日に高田養鶏場での感染が発覚すると府は、さらなる人的支援を農水省に求めるなど自力では鳥インフルエンザ封じ込めができない状況だ。
■経費や人手『もう手一杯』
京都府農政課の太田善久課長は「家畜伝染病予防法では、養鶏の何羽が異常死したら届けるなど、届け出義務の内容があいまいな状態。この点がきちんと法改正されないと行政として敏速に対応できない。それに数十万羽という大量の養鶏処理は地元自治体だけでできるものではなく、人的にも経費的にも既に能力を超えている」と認める。
その上で国に対し「(感染を)抱える自治体が言える筋ではないが、もう隣の大阪府、兵庫県は自分の所の対策で手いっぱいで連携どころではない。感染力を考えれば、もっと全国的な視点で政府に指導力を発揮してほしい」と訴える。
京都府の緊急事態に、他の都道府県も不安を隠せない。丹波町での発生で移動制限区域にかかる大阪府の農政室担当者は、困惑した様子だ。一月に設けた住民向けの相談窓口には、今回の感染が見つかってから「半日だけで三十、四十件の電話がかかった」と話す。
養鶏業が盛んで、全国で最も養鶏が多い茨城県でも、今月一日から全部の養鶏農家の聞き取り調査を始めた。畜産課の担当者は「とにかく、発生を防ぐことが先決」と繰り返す。
各都道府県は相談窓口などを設けるなど防疫対策を取っているが、対応はバラバラだ。さらに担当者を不安にさせているのが、発生時の対応への準備だ。
大阪府内の鶏は計約二十二万羽で、小規模な養鶏業者が多いという。「住宅街近くも多いだけに余計に心配」と、前出の大阪府の担当者は街中で発生した今回のケースに警戒感を高める。
■『処分をする場所がない』
発生時の対策についても「例えば、大阪は感染鶏を埋める場所がない。鶏や卵をどこで処理するか検討が必要。これから検討しなければならない問題は多い」と頭を悩ませる。
前出の茨城県の担当者も「発生した場合には、やはり県だけでは人手が足りない。市町村などに頼むことにもなるだろうし、自衛隊の要請も念頭に置かなければならない」と危機感を募らせる。
もし、鳥インフルエンザが同時多発で全国で発生したら対応できるのか。この担当者は「たいへんなことになる」と話した。
■火事と同じ『鎮火が先だ』
一方、政府が鳥インフルエンザの制圧に本腰を入れたのは二日になってからだ。関係省庁対策会議を開きやっと省庁間の連携基盤ができた。三日には、副大臣だった農水省の対策本部長に亀井善之農相が就任。養鶏業者からの早期通報を義務づける方針を打ち出し立ち入り検査の強化なども加えた。四日には全国一斉の養鶏場消毒を決めたが、感染拡大に対策が追いついているかどうかは疑問だ。
「感染症制圧は火事と同じで、鎮火が先」と話すのは岐阜聖徳学園大の坂井田節教授(家きん学)だ。「一日でも早く鶏を処分しなければならない。二十五万羽もの鶏を処分するために、自衛隊も三百人でも五百人でも動員すべきだ」と迅速に対応するために国レベルの大規模な対策が必要と指摘する。
■『国レベルの制圧を』
人インフルエンザへの変異が懸念されているだけに、危機管理コンサルタント会社「リスクヘッジ」の田中辰巳社長も「国の取り組みの遅さは論外だ。少なくとも山口県で最初に発生した時点で、悠長に自己申告を待つのではなく、きちんと報告ができるような体制づくりをしなければならなかった」と批判、その上でこう断じる。
「『有事』には、普段のスピードで対応していたら間に合わない。米国の危機管理庁のような別組織が必要になる。どんな『有事』も最初のアクションが重要だ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040305/mng_____tokuho__000.shtml