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2004年03月04日(木) 00時00分

実名告発の重み  北海道警報償費疑惑 東京新聞

 北海道警をめぐる捜査用報償費の不正支出疑惑は、元道警釧路方面本部長に続き、元警察署次長も実名での告発に踏み切った。四日には、元方面本部長が道議会で証言するが、不正支出疑惑は、一道警ではなく、全国的な問題との指摘もある。実名告発で、事態は大きく動きだしたものの、警察組織の強いしがらみの中、内部告発は容易ではない。その「重さ」とは−。

 「裏切り者のそしりは覚悟している」。今月一日、告発後に記者会見した弟子屈(てしかが)署元次長の斎藤邦雄氏(56)はこう言い切った。同じせりふは、二月十日に会見した元釧路方面本部長、原田宏二氏(66)も口にした。

 原田氏は、疑惑の舞台となった旭川中央署の署長や防犯部長を歴任。たたき上げでは事実上、最高位まで上りつめた。「在職中からもうやめないといけないと思っていた。最高幹部だった私が匿名でとはいかない」

 ■足手まとい再就職辞す

 斎藤氏は二〇〇一年に定年まで七年を残して退職した。家族は猛反対したが、裏金づくりに耐えられなかった。さらに「仕事があれば足手まといになる」と再就職先も辞め、道警との対決に臨んだ。

 原田氏は「報償費だけでなく旅費なども裏金に流用した。月約五万円の署長交際費や異動の際のせんべつなどに使われた」と証言。斎藤氏もカラ出張や警ら作業手当のピンはねなど自らの経験を詳細に明かした。

 斎藤氏は告発前夜、「私の主張」と題した発表文を涙ながらに記した。「原田さんが孤軍奮闘する姿を見て沈黙できなかった」。その原田氏は「警察官を志す若者は希望に燃えている。私もそうだったが、三十八年の間に手を汚してしまった」と悔いた上、「道警が更生できる最後のチャンス」と動機を語った。

 告発後、「マスコミに金をもらっているのではないか」といった、一部道警幹部の“ネガティブキャンペーン”もあったという。

 警察組織内での内部告発の難しさについて、〇一年に、警視庁の裏金づくりを告発した元職員の大内顕氏はこう話す。

 ■関係者全員共犯になる

 「すべての人間が共犯関係になるという構造で、実態を知っている人はなにがしかの恩恵にあずかっている。しかも退職後の再就職の面倒や、親や子供も警官というケースも多い。こうして“警察村”ともいうべき独特の社会がつくられていく。そのしがらみの中にいると内部告発がやりにくい現実がある」

 大内氏にとって、最後の最後まで引っかかったのは家族のことだった。「警察だけでなく企業でも組織の秘密や恥部は墓場まで隠してもっていくのが美徳と考える日本では、内部告発にはどうしても『裏切り』というイメージがつきまとう。自分ではまっとうなことをしていると思っても、家族は周囲から『何でそんなことをするのか』という目にさらされる。家族を説得できなければ、家族を敵に回す覚悟がないと告発には踏み切れない」

 大内氏の場合、このジレンマを克服するために、告発会見の前日、初めて家族に伝えた。あらかじめ退路を断ち臨んだという。

 全国の警察で捜査協力者に対する謝礼として支払われる捜査用報償費は〇二年度で約七十六億円に上る。政府の答弁書によると、この額は過去五年では最高額の一九九九年度の約六割にとどまっている。

 この報償費が裏金となる構図は、二人の証言によると、ほぼ同じだ。裏金の前渡し金が小切手の形で署の会計課に送られ、担当者が現金化。現金と裏帳簿は副署長が管理していた。弟子屈署では、捜査協力者への謝礼とみせかける架空の領収書は、署員のほか、他署の署員にも偽造を依頼。偽造用の印鑑も多数存在した。報償費などの実際の収支を記録した「出納簿」のほか、偽造の会計文書の控えなども作成。架空の協力者や架空事件の詳細な内容も記載され、これが監査の際に提出されたという。

 この疑惑は一道警内部の問題なのだろうか。

 中部地方のある警察OBは「全国一緒だ」と苦笑する。「本部にいるときには課の次長が、署では会計課長が『これ書いて』とやって来た」と言う。

 ■ラーメン代出せぬとは

 このOBが署の係長だった際、捜査のため刑事数人と県内出張に出た。「冬の深夜、刑事に食べさせた中華そばの千円か二千円の領収書が、会計課長から『こんなものは出せない』と突っ返された。その後、部下の分も含めた三十枚ぐらいの架空書類を『これ書いて』と持ってきた。他県出張という書類もあった。冗談じゃないと半月ぐらい書かなかった」

 捜査協力者の名前は「会計課が電話帳でひろっていたようだ」と言う。「実際の捜査協力者にも謝礼は出したが、その場合はどうどうと領収書を書く。『(協力者が)後難を恐れて領収書提出を拒否した』という体裁のものは、すべて偽物だった」

 裏金は本部なら各課の次長、署では副署長がプールし、一部は自分がとり、残りは本部長や署長らのせんべつなどにあてられていたようだと言う。額は定かではないと言うが内部では「三回もらえば家が建つ」とささやかれていた。「甘い汁を吸っているのはほんの一部。でたらめの書類を書かされた下の者のはらわたは煮えくりかえっている。でも犯罪行為に加担したのは確か。恥ずかしくて言いにくい」。それでも「若い人のためにも事実は明らかになった方がいい」とする。

 中部地方の別の県警で副署長を務めたOBも「(裏金づくりは)ご想像の通りだ」とした上で、「しかし、ここ二、三年はない」と話す。

 関東地方の県警本部で刑事部などの幹部や、署幹部を務めたOBは「(裏金づくりのやり方は)道警のケースとまったく同じ。私も自ら関与していた」と打ち明ける。「オウム真理教の事件の時は、毎月十万単位の金が入り、上司の“接待”や部下との飲食費に使った。悪いことをやっているとの意識はまったくなかった」と振り返る。

 同疑惑の追及を続ける北海道新聞のホットラインには、すでに千件以上の情報が寄せられ、このうち「自分もかかわった」などの現職警察官やOBからの情報も五、六十件に上るという。

 ■国費76億円使い切れぬ

 警察に詳しいジャーナリストの大谷昭宏氏も、裏金づくりは道警に限らないと断言する。「これは全国の都道府県警すべてに共通している問題だ。警視庁でも〇一年七月、機動隊員に支払われるべき日当が年間十二億円の裏金になっていたと会計検査院に審査請求(却下)が出された。七十六億円という国費の捜査用報償費は、とても正当に使い切れる額ではない」

 今回の告発が、警察組織全体に与えた影響は大きい。北海道の高橋はるみ知事は、原田氏の告発の後、「勇気を持って名乗り出てほしい」と、異例の“告発の勧め”を行った。

 原田氏らの代理人を務める市川守弘弁護士はこう話す。「キャリア、ノンキャリアという警察組織の中で、実際には、上が悪くても、ともすればノンキャリアの切り捨てで事を済ませてきた。今回の問題をそうさせないために、全国で市民を実際に守る現場の人たちが勇気を持って、声を上げてほしい。そして、社会全体がその人たちを守っていかなければならない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040304/mng_____tokuho__000.shtml