2004年03月04日(木) 15時46分
春秋(日経新聞)
卵をあまり産まなくなったニワトリを食肉用に出荷する駄鶏淘(とう)汰(た)は業界の常識……。こんなへ理屈をいくら並べても、大量死を横目に感染鶏を出荷し続けた意図は、透けて見える。彼らがこれから直面するのは、無責任な業者の淘汰という世間の常識だ。
▼ニワトリのインフルエンザが、日本に上陸してきたルートはまだ不明。有力候補の一つが渡り鳥で、日本は世界有数の渡り鳥飛来地という。治承4年(1180年)10月には、シベリアから飛来した水鳥が、ウイルスならぬその羽音で、天下を二分する源平合戦の帰(き)趨(すう)を決めた。
▼富士川を挟んで源氏軍と対(たい)峙(じ)していた平氏の軍勢は、沼を飛び立つ水鳥の羽音に驚いて敗走した、と伝えられている。水面で休む水鳥の群れは、早朝、一斉に飛び立つ。そのけたたましさは、たしかに敵襲を思わせる。維盛ら平家の武将にとって、優雅な水鳥の姿が、なんともうらめしく映ったに違いない。
▼今、インフルエンザウイルスの運び役という疑いをかけられたまま、水鳥たちはそろそろ北へ帰り始める。人々は来る春と行く鳥への思いを込めて、帰(き)雁(がん)、雁(かり)の別れ、引(ひき)鴨(がも)、行く鴨などと呼んだ。北へ帰る群れが雲間に消えることを指す「鳥雲に入る」という季語もある。「沢水を濁して雁の別かな」 和琴
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040304MS3M0400H04032004.html