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中央区銀座五丁目にある老舗の大型文具店「銀座書斎倶楽部」。ガラス張りとグリーンのテント地のひさしが特徴で、一見、カフェテラスを思わせる。今年一月、一九四九年の創業から掲げた「銀座文具」の店名を変更するとともに、店舗の大幅改装に着手し、「伝統的な文具店」のイメージを一新した。
新店舗の構成を担当したマーケティングプロデューサーの今尾昌子さんは「会社を定年した人が、パソコンや読書などで充実した日々を過ごす書斎づくりのサポートをイメージした」と語る。
取扱商品も全面的に見直し、これまで大半を占めた低価格のペンやノート類を大幅に減らし、世界各国から取り寄せた高級感のある「こだわりの一品」を中心に陳列。約四万点もあった商品は約六百点にまで絞り込んだ。商品をゆっくりと選ぶ楽しみがあり、店内を見ていると、思わず身の回りに置いて使ってみたい気持ちに駆られる。
店舗改装を決断したのは、インターネット通販による文具販売がここ数年で急速に拡大しつつあるためだ。
経費節約を図りたい企業が「アスクル」(江東区)や「カウネット」(港区)などの割安なネット通販を利用して社内の文具を購入する動きが拡大。それに伴い、担当者が文具店に直接注文する従来の外商販売は減少の一途にある。このため、個人客より企業向けの割合が大きい文具店ほど、ネット通販に顧客を奪われる傾向が強まっている。
「銀座書斎倶楽部」の若村文夫社長は「インターネット通販は全国各地から受けた注文を当日や翌日に配達する。経費をかけず独自の物流網を持つ通販と同じ戦いをしても生き残ることができない」と危機感を抱く。そこで、外商から個人客取り込みへ経営の重点を大きくシフトさせた。
低価格の文具を売る百円ショップやスーパーに押され、既に、小規模な文具店は全国各地で姿を消しつつある。経済産業省の商業統計によると、一九五六年に全国で三万四百九十八店あった文房具小売業が、一昨年は一万五千九百六十二店と約半世紀でほぼ半減した。
こうした状況に対し、今年創業百周年を迎える銀座二丁目の老舗文具店「伊東屋」も新たな戦略を練り始めた。伊藤明本店長は「当社は店頭での販売が九割で企業向けの外商は一割にすぎないので、外商が多い他社に比べインターネット通販の影響は小さい」としながら、三月中旬に完成する丸の内店の改装に初めて女性デザイナーを起用。黒や木目を基調に男性的な色彩が濃かった店の雰囲気を、白や銀色を中心とした色に変えてファッション性を重視した明るい雰囲気の店にする。
伊藤本店長は「これまで丸の内にある三菱系企業などに事務用品を納めてきたが、最近は売り上げが減っている。(女性に人気の)新丸ビルの影響を受けて客層に変化が出ており、ターゲット(標的)を女性寄りに移す」とビジネス客から買い物客重視へ転換する。
こうした傾向について、大正時代から業界を見続ける専門誌「月刊文具と事務機」を発行する「ニチマ」(千代田区)の福地誠社長は「ネット通販の拡大で、文具業界は卸や小売りを通さず販売する『中抜き』が顕著になってきた」と指摘する。今後も全国的にこの動きが加速すると予測する。老舗文具店の試みに「銀座という特別なロケーションを生かしてできることだが、ネット通販に対し文具店業界全体はまだ試行錯誤の段階。店舗改装などが効果を発揮するかどうか、一つのチャレンジと言える」と話している。
文・秦淳哉/写真・山根勉
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