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(早川由紀美)
■保護者が飼育抗議の幼稚園
「幼稚園は人より鳥をとった」
二月上旬、奈良県大和郡山市立のある幼稚園の前で、園児の保護者がチラシを配った。幼稚園では烏骨鶏(うこっけい)とチャボ合わせて四羽を飼っている。この保護者は、四羽を子どもと接触しない場所に移動するよう、園に要望を出し、子どもを休ませていた。前日には、獣医師らが診察し、感染していないことを確認したばかりだった。「僕らは大丈夫ですよと言ったが、保護者は『潜伏期間があったらどうする』と、聞く耳を持たなかった」(診察した獣医師の一人)
その後の園側の説明の結果、保護者は納得したが、市の判断で、四羽は市の職員宅に移動された。園長は「コッコさんは寒い間だけ、暖かい所に旅に出ました」と園児らに説明したという。「園から出すとき、幼稚園の先生たちは泣いていたそうです」(獣医師)
■『鳥を守る心が大人への信頼はぐくむのに』
獣医師は「科学的判断で指導しているのに、引きあげるのはどうか」と、市側と話し合いを持った。「保護者は園だけに苦情を言っていたわけではなく、市教委などにも『子どもを通わすことができなければ教育を受けることができず、人権問題にかかわる』と訴えていたそうです。市には事を大きくしたくないという危機感があったようだ」
全国学校飼育動物獣医師連絡協議会主宰の中川美穂子さんは、教育関係者に予防策をメールなどで伝えている。「飼育している鳥に外部から病気を持ち込まないために、飼育舎への出入りの時はゴム長靴の裏を消毒する」「一日一回は必ず掃除して、ふんが乾燥して舞い上がらないようにする」「飼育舎清掃後、接触後の手洗い、うがいの徹底」などだ。
「病気が心配なら、病気にかからないように鳥を守ればいい。子どもの心には、大人が一緒に守ってくれたという信頼感が生まれるでしょう。心の教育で鳥を飼育しているのに(隔離などの対応は)子どもと動物とのきずなとかを考えていない」と中川さんは批判する。
■冷静な対処を求める文科省
文部科学省も、冷静な対応を求める通知を教育現場に出している。「不安があることは承知しているが、処分することが不安を取り除くことにはならない。冷静に、根拠を持って対処してほしい」(文科省学校健康教育課)とする。
それでも、宮崎県の都農町では町内の四小学校での鶏など四十八羽の飼育中止を決めている。それぞれの学校で引き取り手を探しているが、まだ一部、決まっていない。
■養鶏の町 飼育中止で波紋
「ここは養鶏が盛んな町です。人口は一万二千人ですが、鶏は九十五万羽いる。そういう中で鶏が病気になったら死活問題になる。養鶏業者はピリピリした気持ちで仕事をしている。卵からかえってから出荷までの六十日間、祈るような気持ちでいる」。都農町の村田粂太郎教育長は地域の実情を説明する。
「田舎なんで、学校では野鳥の侵入はなかなか防げない。学校の鶏が感染ということになると、周囲三十キロの鶏も移動制限となり、命がけで働いている人に対し弁解の余地がない。(文科省は)病気になったら届け出てくれと言うが、土地柄、そんな悠長なことは言っておられない」
「子どもは寂しいじゃろうが、地域の人の仕事がつぶれてしまい、鶏も無駄死にさせなきゃいけなくなるという現実を根気よく伝える。教育現場では普段、人が生きていく大変さということについて、話をする場面がない。いい学習の機会だと思う」
「飼育中止」の一報がニュースで流れると、批判の電話やファクス、メールが殺到した。町内からではなく、町外や、東京など県外からだった。引き受け手がなかった場合「食肉に供することも」と村田教育長が発言したためだ。「生き埋めにしたり、毒殺したりはせず、命に報いる形でという意味だったのだが…」
「小動物の命を、そう簡単に絶つのか」と書かれたファクスは、埼玉県の学校教諭からだった。
「電話をすると飼育係主任の先生でした。児童の代わりに、先生が交代で世話しているそうです。土日も休めず疲労困ぱいで育てている。そういう苦労をしているのに、都農町では簡単にやめるのかという抗議だった」
村田教育長は二年前から自宅でチャボを飼っている。教委職員の夫が脳卒中で倒れ、引き取り手を探していたため、三羽をもらった。卵がかえり、十羽に増えた。「子どもたちの寂しい気持ちを考えると、学校で飼うなと言っておいて、自分で飼うわけにはいかない。知人に引き取ってもらう。チャボがおると朝から楽しくて、かわいがっておったけど…」
■野生生物とはすみ分け必要
チャボが感染した大分県では、環境省などが渡り鳥などの調査を始めている。野鳥などが持っているウイルスが、鶏などに感染することで病原性のものに変異すると考えられているからだ。
日本野鳥の会には「ツバメの巣を落とすような過剰反応が心配」などの相談も寄せられるという。同会はホームページ上で、ガンやカモなどの渡り鳥が持っているウイルスは病原性がないことや、野鳥から直接人に感染した例はないことなどを説明している。
そのうえで、同会の金井裕主任研究員は「野生の生き物と、家きんや人は、一定の距離を置いていることが望ましい」と話す。鳥インフルエンザのように、他の自然界のウイルスも、家きんなどに感染することで変異し病気を引き起こす可能性もある。「狩猟反対を訴えている野鳥の会が言うと、うさんくさくなってしまう感じもあるが」としつつ、野鳥の狩猟を控えたり、捕獲、輸入してペットにしないことも予防策とする。
さらに、金井さんは生息環境についても言及する。「野鳥が薄く広くちらばっていれば、病気は広がる可能性は低くなる。しかし現状では(開発などで)すめる所が少なくなって、特定の場所に集中的に集まっている。一度病気が出れば、皆が感染してしまう。野生生物の保全という点でも問題が多い」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040301/mng_____tokuho__000.shtml