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東京慈恵会医大(東京都港区)放射線医学講座の福田国彦教授は、自ちょう気味に語る。
国連科学委員会報告によると、日本のCT設置台数は人口百万人当たり六十四台。これは、米国やドイツをはるかに上回り、英国の十倍以上の多さだ。人口千人当たりのエックス線検査件数(年間)も千四百七十七件で、諸外国に比べ飛び抜けて多い。
CTは微小ながん病変などを見つけるため、ミリ単位の精密で鮮明な断層画像を撮れる仕組みになっている。半面、放射線照射量は、撮影条件にもよるが、旧来のエックス線検査装置の数十倍から数百倍にも達する。「これが日本人の医療被ばく線量を押し上げている」と、日本放射線腫瘍(しゅよう)学会理事を務める晴山雅人・札幌医大教授は指摘する。
なぜ、日本はこれほどCTや検査件数が突出して多いのか。晴山教授は続ける。
「日本の病院や診療所には、CTを保有していなければステータスが低くみられるという風潮がある。それに検査をすれば、診療報酬がとれる保険制度になっている。検査マニュアルはなく、病院間の連携が不十分なため、重複検査も多い」
福田教授も「米国では一回のCT検査費用が十万円程度と高いので、中核病院だけに置かれ一部の金持ちしか受けられない。日本では患者負担が三千−四千円。この違いが大きい」と話す。
さらに、性能の低い旧型のCTは一台三千万−四千万円だったが、「マルチスライス」などと呼ばれる多くの画像が見られる最新型のCTは一億円以上と高額化している。中小の診療所が無理して購入すれば当然、「費用対効果から稼働率を上げるため、安易な検査を増やすことにつながっている」と、福田、晴山両教授は危ぐする。
問題は、それだけではない。「エックス線検査を、資格外の看護師や事務職員などに行わせる違法行為が依然行われていることが、必要以上の被ばく線量を患者さんに与えている」と順天堂医院(東京都文京区)放射線部の伊津見栄重・技師長は指摘する。
日本では医療法や診療放射線技師法で「人体に放射線を照射できるのは医師、歯科医師、診療放射線技師」と限っている。
ところが、「今の装置は操作が簡略化され、資格外の人間でも扱える。小さな診療所などでは技師がおらず、医師が忙しいときなど看護師にやらせてしまうこともある。しかし熟練していないから、放射線を避ける防護具の着用が不十分だったり、透視に時間がかかりすぎたり、失敗して撮り直しをしたりということがある」(伊津見技師長)
さらに、今の診療報酬制度では、放射線科医がエックス線撮影しても専門外の開業医が撮影しても保険点数は同じ。「技量や検査の質に対して正当な評価をしていないことも、医療被ばくの増加に拍車をかけている」と晴山教授はみる。
欧米では、CTの画像診断報告書を画像診断専門医が作成するよう義務づけられているが、日本では義務づけられていない。「報告書を作っているのは恐らく一割程度。トレーニングを受けていない医師が検査をやりっぱなしというのが現状」(福田教授)と言う。
両教授は「それもこれも画像診断専門医の数が少ないことが大きな原因」とみる。さらに晴山教授は「最近は、PET(ポジトロン断層撮影、被ばく線量2・2ミリシーベルト)とCTを組み合わせた撮影装置なども販売されている。何らかの歯止めをかけなければ、今後ますます日本人の医療被ばく線量は突出するだろう」と警告する。
ただ、CTなどの効用が大きいことは言うまでもない。過剰に不安がることは禁物だ。ではどうしたらいいのか、を次回は考える。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040229/ftu_____kur_____000.shtml