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「研究の前提に疑問がある」「危険を過大に見積もりすぎ」−。日本の研究者たちは、この研究の結論に、懐疑的だ。
そもそも、この研究はオックスフォード大の研究チームが医学誌ランセットに発表したもの。
エックス線診断を受けた回数や被ばく量と発がん率を十五カ国で比較。「日本で、エックス線検査が原因のがん患者は、全体の3・2%(年間約七千五百人)。十五カ国で最多」と結論づけた。
どこが問題なのか。
日本放射線技師会の中村豊理事は「検査の低量被ばくの影響を、結論が出ていない仮定に基づいて算出している」と指摘する。
英国の研究は広島・長崎の原爆被爆生存者の疫学データを基礎にしている。しかし、原爆の被ばく線量は医療で使われる放射線より三つか四つゼロが多く、文字通り“けた違い”。しかもガンマ線、中性子線などの混合放射線で、影響も相乗的に大きくなるとみられ、そのデータの単純な応用は無理との見方が強い。
「論文でも高く見積もりすぎる可能性があることは認めています」(中村さん)。
国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線の悪影響を「放射線をある程度浴びなければ出ないとする確定的影響(例えばやけどなど)」と、「ちょっとでも浴びれば出る可能性が否定できない確率的影響」に区分。後者は少量でも発がんや遺伝に影響する可能性が否定できない被ばくで、疫学的に二百ミリシーベルト(注参照)を超すと危険性が高まることが知られている。しかし、それより微量の放射線を浴びたとき、どんな影響が出るか明確なデータはない。
医療現場で用いられる放射線は、この微量レベル。例えば胸部のエックス線集団検診で〇・〇五ミリシーベルト、CTでは六・九ミリシーベルト。部位によっても影響は違うが、これは普通に暮らしていて浴びる自然界の放射線(年平均二・四ミリシーベルト)と、ほぼ同レベルと考えられている。この程度でも発がんなどに影響するかどうかは見方が分かれる。広島、長崎の疫学調査で遺伝への影響は確認されていない。
そんな中、この研究は広島・長崎のデータをもとに被ばく線量と発がん率が比例の関係にあるとした仮定に基づいて低量被ばくの発がん率を推定している。これが、中村さんが指摘する点だ。
一方で、エックス線診断ががんなどの早期発見に役立っていることは、すでに定説。
例えば一九九三年に検診にCTを導入した「東京から肺がんをなくす会」のデータを見ても、発見率は人口十万人あたり導入前の百六十三人が四百四十三人(二〇〇三年八月)と二倍超にアップ。CTによる早期がんの発見率も全体の五割から八割に上がった。
CTは、画像が間接エックス線検査より詳細なかわり、被ばく量も何百倍も多い。ICRPが確率的影響で目安としている「線量限度(一ミリシーベルト)」も超している(図参照)。それでも使われるのは医療現場では、医師らが患者の利益とデメリットを検討し、被ばく線量の低減に努めることが大前提になっているから。このため線量限度は医療では適用されない。
同会が検診にCTを導入したのも、研究者たちが、調査研究から「病院の診断で使うCTの被ばく線量を数十分の一以下に低くすれば導入は有益」という結論を出したからだ。
シーベルト 被ばく線量の単位。放射線を浴びた時、その種類や浴びた臓器で影響が異なるため、この違いを考慮したもの。「実効線量」とも。日本放射線技師会の低減目標のガイドライン(単位・ミリシーベルト)では従来のエックス線撮影は頭部(正面)3、胸部(同)0.3、腹部(同)3、CTは頭部40、腹部11。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040228/ftu_____kur_____000.shtml