2004年02月25日(水) 12時45分
社説1 ネット社会の信頼損なうヤフーBB事件(日経新聞)
高速ネットサービスの「ヤフーBB」から460万人もの顧客情報が漏れ、恐喝に使われるという深刻な事件が起きた。ヤフーBBはブロードバンド(高速大容量)通信を広めた立役者だけに、ネット社会の信頼が大きく損なわれた。
460万人の情報が確かな情報かどうかは運営会社のソフトバンクBBと警視庁が調査中だ。不正なアクセスの痕跡は見当たらないとしており、内部からの流出との見方が強まっている。ヤフーBBは街頭での会員獲得など派手な営業活動で成長しており、個人情報の管理体制にも不備があったといえる。
個人情報の漏えい事件が増えたのはブロードバンドが普及した2年ほど前から。常時接続により外部からの侵入が容易となり、企業も大量の個人情報をネットで管理する例が増えたためだ。また業務の外部委託の増加も個人情報の管理体制をあいまいにする要因となっている。
ヤフーBBでも約2000人の社員に対し、開発など約1500人の契約・派遣社員がいる。事件発覚前の昨年秋には個人情報を扱う担当者は約130人おり、一般社員も高速ネットで自宅から社内と同様な環境で仕事ができるようになっている。
個人情報の流出は56万人の顧客情報が漏れたローソンの例などがあるが、ヤフーBBの場合は通信インフラそのものを提供しているだけに責めは大きい。通信事業の規制緩和により新規参入で急成長し、社員も1年で4倍にも増え、管理に落ち度があったことは否めない。
問題はこうした事件を今後どう防ぐかである。来春には個人情報保護法が施行され、企業は個人情報の収集、管理、利用について厳しい条件を課される。不当に個人情報を取得する行為は当然罰せられるが、今度は情報を扱う側にも責任が生じる。違反者には厳しい罰則を社内で定める必要があるだろう。
一方、通信事業者に対する新たな監視も重要だ。通信インフラを拡大するため、新規参入を促す電気通信事業法の改正が予定されているが、そのために事業者の運営が甘くなることは避けねばならない。金融や医療と同様、個人情報に深くかかわる通信事業者には個別のより厳しい個人情報保護法の制定が急がれる。
ソフトバンクBBは社内に調査委員会を設け、流出ルートの解明を急いでいるが、利用者側もパスワードの変更など自己防衛策は必要だろう。同社は利用者の拡大に加え、ネット社会の信頼を確立するという新たな責務を負ったことになる。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040225MS3M2500E25022004.html