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[医療事故鑑定]「かばい合い体質に風穴が開いた」
何ごとも「持ちつ持たれつ」の日本社会では、仲間同士のかばい合い体質が根強い。医療の世界も例外ではないが、そうした体質に風穴を開ける取り組みが出てきた。
横浜市の昭和大藤が丘病院で起きた腹腔(ふつくう)鏡手術の死亡事故で、専門医でつくる学会が異例の鑑定に乗り出し、「医療ミスは明白」との意見書をまとめた。
「昭和大出身の医師が手術ビデオを見たが、ミスはなかった」としていた病院側も一転、主張を撤回し、謝罪した。
鑑定したのは泌尿器科系の先端医療を担う日本EE学会だ。複数の専門医を選び、匿名で検証する新たな鑑定方式を採用し、事故原因を解明した。
職能集団である学会が、かばい合い体質を排除し、公正な立場から鑑定を実施したことを、高く評価したい。
同学会は、裁判所や捜査機関から依頼があれば、今後も同じ方式で鑑定を行う方針だ。医療事故の再発防止に向けた調査も進める。医療分野の他の学会も、大いに参考にしてもらいたい。
医療訴訟においても、今回の鑑定方式を積極的に導入すべきだ。
鑑定は判決内容を左右する重要なものだが、引き受ける医師は少ない。責任が重く、時間も取られる割に、医師の業績として評価されない。医療関係者や出身大学などからの批判や圧力にさらされることもある。
医療訴訟の審理期間が平均二年半と、通常の民事訴訟の三倍もかかるのも、鑑定人探しに手間取ることが原因の一つとされている。
一人の医師に頼る鑑定は、負担が重い上、公正さに欠ける恐れがある。実際、過度に医師に甘かったり、事実にそぐわないなど不適切なものは珍しくない。
最高裁は、各学会から鑑定医を推薦してもらう制度を作っている。東京地裁では、複数の専門医がミスの有無を法廷で討論する方式を導入している。だが、あくまで個人の資格による鑑定である。
これに対し、昭和大藤が丘病院のケースでは、学会が自ら鑑定を引き受け、その結果についても、学会として責任を負う。個人の負担が軽くなり、第三者としての客観性が担保される。
最高裁も各学会に、この鑑定方式の導入を働きかけていく必要がある。
学会にも、鑑定医を選出する過程の透明化や、鑑定結果の事後評価の仕組みづくりなど、さらに公正さを高める工夫が求められよう。
多発する医療事故に、国民の不安は大きい。ミスを検証し、正していくことこそ、学会の重要な役割である。