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2004年02月23日(月) 20時02分

[支局長からの手紙]武田哲夫・京都支局長 お年寄りの詐欺被害 /京都毎日新聞

 警察庁は19日、「平成15年中のハイテク犯罪の検挙ならびに相談受理件数」を発表しました。その中で気になるのが、架空請求メールについての被害相談が急増していることです。架空請求メールは、いわゆる迷惑メールの一種で、利用した覚えのない有料サイトの利用料金の支払いを、ある日突然、請求されるものです。1年間で1万7838件の相談があり、相談件数全体の43%を占めました。架空請求メールを受け取った人の大半はすぐに「おかしい」と気づき、被害はありませんでしたが、一部の人はうっかりしたり、請求内容を信じて支払い、被害を受けていました。巧妙で悪質極まりない詐欺事件です。
 最近、新手の詐欺が横行しています。毎日のように報道されているのが、いわゆる「オレオレ詐欺」です。「オレオレ」とお年寄りの家庭に電話をかけ、生活費、学費、交通事故示談金などの名目で、指定した銀行口座に金を振り込ませる犯罪です。1回に何百万円もだまし取られたケースもあります。被害を受けたことのない人から見れば「何でだまされるのだろう」と不思議に思うかも知れませんが、子や孫に対する思いやりを逆手に取った巧妙な手口です。「今すぐ、振り込んでくれないと大変なことになる」などとせき立て、相手に十分考える時間的余裕を与えないのが特徴で、つい、振り込んでしまう被害者が多いのです。オレオレ詐欺をはじめ、お年寄りをターゲットにした詐欺事件は後を絶ちません。
 1980年代に豊田商事による「金のペーパー商法」事件がありました。被害者は3万人、被害額は1200億円にのぼる戦後最大、最悪の悪徳商法事件でした。「今、純金を買えば、かならずもうかる」と純金を買わせる商法です。ただし、客には純金を渡さず、「金を保管していたら危険だから預かりましょう。その分利息も付けます」と「純金ファミリー契約証券」という預かり証だけを渡すのです。その後の調べで、豊田商事が純金を購入した事実はほとんどなく、おおがかりな詐欺だったのです。
 被害者の多くはお年寄りで、老後の生活のために苦労して貯めていた貴重な財産をだまし取られました。詐欺の主な手口は「年利が20%にもなる」「預金が1000万円以上ある人は、年金をもらえなくなる」などのでたらめなセールストークです。中には、独り暮らしのお年寄りの男性の家に上がり込み、男性と一緒に入浴して信用させ、契約させる女性社員もいました。結局、詐欺事件として摘発されましたが、被害にあった金はほとんど戻りませんでした。
 バブル経済がはじける前には、原野商法という詐欺事件もありました。北海道などの開発のめどのない二束三文の原野を、「新幹線が近くを通る予定で、かならず値上がりする」などとうそをつき、お年寄りらに高い値段で買わせていました。日本列島改造論による土地ブームが背景にあり、多くの人が被害に遭いました。
 豊田商事事件と原野商法事件の共通点は、被害者がお年寄りに集中していることと二次被害が多く起きていることです。二次被害とは、詐欺の被害者が、同じ詐欺グループによって同種の詐欺被害に遭うことです。豊田商事の残党グループは、被害者宅を訪問し「うちはあの豊田商事とは違い、かならずもうけさせます」とうそをついて、詐欺まがい商品を売りつけ、原野商法のグループは「あなたの持っている原野を高く買いたい人がいる」と持ちかけ、測量費や広告費、登記料などの名目で多額の金をだまし取っていました。
 お年寄りを詐欺の被害から守るには、何よりもお年寄りを社会から孤立させないことです。家族がいて、日ごろから対話が出来ている家庭なら、被害に遭う前に家族と相談が出来ます。家族がいない場合は、近所の人がお年寄りの相談相手になればいいでしょう。それも無理な場合は、行政や民間ボランティアが、お年寄りのことを見守る必要があります。社会の高齢化がますます進んでいます。悪質な詐欺からお年寄りを守ることは、国、地域社会の責任です。 【京都支局長・武田哲夫】(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040223-00000002-mai-l26