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2004年02月19日(木) 00時00分

鳥インフルエンザから新型ウイルスへ  複雑すぎる感染ルート 東京新聞

 国内で二例目となった鳥インフルエンザ感染は、愛玩用チャボだった。農水省が実態を把握しやすい養鶏農家ではなく、ペットへの感染が確認されたことで、調査の行き届かない鳥の感染は既に拡大しているのでは、との疑念も生じる。さらに、「鳥から人」「人から人」の恐れはないのか。「三段階で高まる危機」を検証した。

■鳥→鳥

 「養鶏農家ならともかく愛玩用まで感染の危険性に関する情報を把握するのは実質的に無理です。今回はおかしいと気づいた飼い主がたまたま通報してくれたが、こうした例がどれほど埋もれているのか…」

 二例目の感染がペット用だったことに農水省の担当官は少なからぬショックを受けているようだ。実際に、国内で鳥から鳥への感染が既に拡大している可能性はあるのだろうか。

 鳥取大の大槻公一教授(獣医微生物学)は「現状では、急拡大している可能性はない。山口と大分の関連性は分からないが、発生に一カ月以上間隔が空いた。拡大するならもっと早い時期に付近で多発していただろう」と分析する。

 ただ、今回のようなペット感染のやっかいなのは感染ルートの解明が難しいことだとも指摘する。

 「養鶏場での発生なら、関係者は同じような行動パターンを持っていて原因を特定できる可能性もある。しかし、ペットの場合、育て方や飼い主の交友関係などは千差万別で感染経路特定はより困難になる。野鳥のほかに人を介した感染も考えられる」

 岐阜大の平井克哉名誉教授(獣医学)も「今回は大陸から飛来した渡り鳥やカモではないように思う。時期的に考えて、東南アジアから渡り鳥が九州を経て北に帰る時期ではない。どこかでウイルス感染したものが人を介して大分まで運ばれたのではないか」との見方を示した上で、この際、ペットとして輸入される鳥類の検疫態勢を強化すべきだと主張する。

 「養鶏場ではなく、民家のペットに感染したことで農水省は相当焦っていると思う。そこまで、情報を把握するのは大変なこと。ただ、一方で年間で何十万羽も海外から輸入されるペット用の鳥の検査態勢を見直すいい機会でもある」

■鳥→人

 鳥インフルエンザがそのまま人に感染することはまれだが、東南アジアで事例が増えつつある。

 十八日午後十時現在でベトナム、タイで計二十九人が感染、うち二十二人が死亡している。養鶏場などで、乾燥した感染鳥のふんが大気中に舞い大量に吸い込むなどして感染したとみられている。国内でも鳥から人へ感染する可能性はあるのか。

 大槻教授は「タイやベトナムの場合、家きん類が生きたまま市場で取引されている。さらに、人と鳥とが同居しているような状況で乾燥し空気中に舞い上がったフンを大量に吸い込む環境だった。日本の場合、養鶏場と居住地域が離れており、死亡者が出る可能性は低い」と予想する。

 しかも世界保健機関(WHO)が鳥インフルエンザが人に感染した場合にも治療効果を認める人のインフルエンザ薬・リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)は「日本が世界最大の輸入国」(坂口厚労相)だ。

 スイス・ロシュ社から輸入・販売する中外製薬によると、今季は千三百七十万人分を確保、三月末までに千三百万人分を出荷する予定で、昨年の二・四倍に当たる。仮に鳥インフルエンザが人に感染する事例が出ても対応可能のようだ。

■人→人

 何よりも危険なのは、鳥インフルエンザが突然変異し人の間で感染する新型インフルエンザウイルスが生まれる事態だ。このメカニズムについて、東京大学名誉教授の山内一也氏(ウイルス学)は「鳥インフルエンザが家畜のブタに感染する。このブタが同時にヒトのインフルエンザウイルスにも感染すると、ブタの体内で遺伝子の組み換えが起こり新型インフルエンザに変化する」と解説する。

 過去の新型インフルエンザでは、一九一八年から大流行したスペイン風邪では世界で二千万−四千万人が死亡した。五七年のアジア風邪、六八年の香港風邪と、二十世紀中には三度の大流行があった。

 大槻教授は、発生や強力化の場として共通するのが中国南部や東南アジアであることを指摘する。「三度の流行はすべて、鳥からブタを媒介して新型ウイルスが発生している。中国南部から東南アジアにかけて、鳥、ブタどころか各種の動物が同居している。アジア風邪はシンガポールが発生源でスペイン風邪も中国南部で強力化したとされる。WHOは九六年から中国南部が新型発生地として有力視し調査を進めている」

■中国の情報開示がカギ

 問題なのは今回、東南アジアに比べ、中国の鳥インフルエンザ情報が少ない印象を与えている点だ。

 OIE(国際獣疫事務局)などによると、今月十日現在で、タイではニワトリ、アヒルなど計一千万羽以上が死んだ。二千六百四十万羽が処分された。インドネシアではニワトリ四百七十万羽が死んでいる。こうしたデータに比べ、中国では三十一ある省や自治区などのうち過半数の地区でニワトリなど家きん類への感染が確認されているといわれるが、数字としては、今年一月以降五万羽が感染し、死んだというデータがある程度だ。人については死者はもとより、一人の感染者もないという。

 ちなみに中国は世界第二位の鳥肉生産国で、約百三十億羽の鳥類を飼育しているといわれる。

 一方で、昨年二月、WHOは、中国南部の福建省を旅行した香港の家族が鳥インフルエンザに感染、うち二人が死亡したと発表している。大槻教授は「こうした事実があったのに、他に死亡例がないというのは納得できない。情報操作がある可能性が高い」と疑念を抱く。前出の平井名誉教授も「SARS(新型肺炎)の時と同じで、また、情報を出そうとしていないのではないか」と話す。

 中国が情報を隠ぺいしているとすれば、その理由はどの辺にあるのか。大槻教授は「二〇〇八年の北京五輪に向け中国政府が国のイメージ戦略に神経質になっている部分が大きいのではないか」と推測する。

 「大流行を発表してもイメージが悪い。まったく発表しないのも、国際社会に対して理屈が通らない。近隣のベトナム、韓国で発生しているからだ。昨年のSARSと同じで、隠しきれなくなり、仕方なく感染例を認めただけだ。中国の情報操作が本当にあるとすれば新型ウイルス対策に与える悪影響は計り知れない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040219/mng_____tokuho__000.shtml