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■社保庁宿舎 建設に『流用』
横浜市内の繁華街から歩いて十分、港の見える丘公園まで約一キロという立地の良い住宅街に、三階建ての宿舎がある。約千三百四十平方メートルの敷地に約三億六千五百万円の建築費をかけて建てられたのは一昨年十二月だ。3DK(六十一平方メートル)が十二戸、独身者用の1K(二十四平方メートル)が十八戸ある。家賃は3DKが月二万千百六十七円、1Kが六千八百六十四円だ。
「あんな所に入ることができてうらやましい、という話を部屋探しに来る客から聞く」。こう話すのは近くの不動産業者(59)だ。「この辺りだと、3DKなら月約十二万円、1Kなら月六万円から六万五千円くらい。かなり割安だ」
このお値打ち物件、実は社会保険庁職員の宿舎だ。建設費は、国民年金や厚生年金の積立金などを財源とする「厚生保険特別会計」から支出されている。つまり国民の保険料で賄われているということだ。
■将来の給付危ういのに
近くの民間マンションに住むパートの女性(34)は「住んでいる人に罪はないけど、そういう制度を運用している人の給料を減らすとか、ムダを省いてほしい」と苦笑いする。女性は夫と子ども二人の四人暮らし。「今の生活でいっぱいで年金には入ってない。私たちの世代はもらえない、という話も聞くし」と年金制度への疑問を口にした。
先の不動産業者は「年金資金の運用に失敗して、それでいて宿舎造って、給付の財源を削ってるんじゃ、納得いかない」と怒りを隠さない。
税金を財源とせず、大切な国民の保険料から宿舎資金を支出する根拠を、社会保険庁の担当者が話す。「一九九七年に施行された財政構造改革の特別措置法で、保険料を事務費に充てることが決まった」。財務省の担当者は同特措法の趣旨について、「当時は膨れ上がる税金から支払われる社会保障費用の抑制がいわれていた。そのための措置。財政構造改革のためだ」と話す。
■2人入居でさらに格安
「財政再建」の結果、社保庁が保険料を財源として建設した宿舎は一道一府二十五県の三十九施設で、建設費の総額は七十億円以上だ。どこも家賃は割安だが、金沢市内の宿舎のように、2LDKの家賃は一万七千七百五十九円だが、ここにワンルームの形で二人が入居すると、さらに家賃が二千四百円まで下がるケースもある。「宿舎法では、使用料は平米数で決まっており、それで安くなる…」。こう話す同庁担当者の声は、消え入りそうだった。
■特別会計で“ザル”運用
特別会計は複雑だ。
厚生保険特別会計には、国民年金特別会計や厚生年金積立金、一般会計などからの交付金などさまざまな形で資金が入る。会計は業務ごとに「年金勘定」「健康勘定」「児童手当勘定」「業務勘定」に分かれ、本年度予算の歳出は総額約四十二兆二千四百万円に上る。
■交際費にも保険料使う
問題は、同庁の事務費などを扱う「業務勘定」。その規模は約五千九百億円で、事務費に使われるのは千五百六十億円だ。「このうち五百六十億円の財源が保険料。税金だけでは事務費負担が厳しい」と財務省担当者がさらりと説明した。
保険料からの巨額「流用」の使途先について、年金制度の問題を国会などで追及している民主党の長妻昭衆院議員は明かす。「宿舎建設費のほか、同庁長官の交際費も含まれる。長官が県人会に出席した際のご祝儀もそう」
年金の財源確保が危ぶまれる中で、国民の保険料を、本来、国庫で負担すべき宿舎建設費などの事務費に充てる必要があるのか−。
■財務省関係者批判に反論
当の社保庁職員は「国民の批判があるのは、このままでは、社保庁職員の給料も保険料から、となりかねないからでしょう。本当は、事務費や宿舎建設は、国庫(税金)で負担してほしい」と本音を話す。財務省関係者は「批判のご趣旨は分かるが、一般の生命保険会社がどうしているか。預かった保険料から社宅を建てている。それと同じ発想」と強弁する。
さらに「(預かり金から事務費をもらうことで)運用者としての、コスト意識を持ってもらうため」とも話す。年金関連の事業団が保養施設「グリーンピア」などのムダなハコものをつくり、批判を浴びているのも事実だ。コスト意識など持っているのだろうか。
ある生命保険会社の社員は、国のコスト意識に首をひねる。「(生保も)保険料を運営経費に充てているが、預かる保険料の質が違う。国が預かる保険料は、より公共性が高い。それに民間は経費もかなり削っている」
さて、保険料の「流用」を認めた同特措法は本年度で期限切れとなり、国は今国会に「流用」を延長する法案を提案している。が、「新たな立法でなく、特例公債発行のための法律に紛れ込ませてきた」と指摘するのは先の長妻議員だ。
法案は「平成十六年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法」で、一見、同特措法とは関係ないように見える。
財務省関係者は弁明する。「その趣旨は『等』の中に含まれている。延長するのは、今もなお、特措法を作った時と同じように、財政状況が厳しいから。特例公債発行のため、毎年法律を作っており、その中で、特措法と同じ措置を盛り込んだだけ。隠したわけではない。税金で負担するか保険料で負担するか。どっちも国民負担に変わりはない。やましくはない」
先の長妻議員は憤る。
「これでは年金掛け金ピンハネ継続法だ」
■値上げ指示現在はなし
一方、国家公務員の宿舎をめぐっては、民間賃貸住宅に比べて格安という批判に、財務省は今月、家賃を平均25%引き上げることを決めた。ところが、社保庁の職員は煮え切らない。「値上げするかどうか、財務省からまだ指示を頂いていないので、答えられない。安いと言われても国の基準でやっているので…」
年金問題に詳しい武蔵野大学大学院の川村匡由教授は「公務員宿舎は保険料ではなく、しかるべき財源から出すべきだ。これまできちんと説明せずにやってきたことも問題だ。少子高齢化となることは、七〇年ころから分かっており、財政が逼迫(ひっぱく)してから、政官の癒着で財政構造改革をしたこと自体が間違い。その構造改革こそ必要だ」と手厳しい。日大法学部の岩井奉信教授(政治学)も指摘する。「特別会計は国会のチェックが入りづらく、政府・与党が政治的思惑で動かせる金だ。透明性を求める時代の流れに逆行する」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040218/mng_____tokuho__000.shtml