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2004年02月16日(月) 13時50分

社説1 刑罰強化が生きる対策の積み重ねを日経新聞

 法相が、法制審議会に法定刑の引き上げや公訴時効の見直しなどを盛り込んだ刑法と刑事訴訟法の改正を諮問した。刑法犯の認知件数は7年連続で最悪記録を更新中である。治安の悪化、とりわけ凶悪犯罪の増加に歯止めを掛けたいというのが、改正の狙いである。

 刑法が施行され1世紀近く、刑法の価値観と社会の価値観との間に大きなズレが生じている。それを是正するのは当然である。問題は、刑罰強化が犯罪増加の歯止めになるかどうかである。治安の悪化に不安を持つ国民の安心と応報感情を満足させられるが、刑罰強化のみでは効果が乏しい。これとの合わせ技でさまざまな対策を進める必要があろう。

 諮問した改正要綱の主な内容は、(1)有期刑の上限の一律引き上げ(2)生命や身体・性的自由を侵害する犯罪の刑の引き上げ(3)公訴時効の延長——の3つである。

 刑法は、人の命や身体、性的自由の価値を低く見過ぎている。物を盗んでも、人を傷つけて一生介護が必要な体にさせても同じく10年以下の懲役である。何十人殺そうと15年たてば起訴されない。生命の価値と財産の価値のバランスが、刑法を制定した当時と大きく違ってきた。被害者を犠牲にして逃げ得を許す時効制度について、人々の見る目は厳しくなっている。刑法が国民の正義感の反映である以上、その価値観に合わせる補正は必要である。

 新潟県で起きた女性監禁事件のように9年以上監禁されたのに、監禁致傷罪だけなら10年の懲役にしかならないというのもおかしな話だ。監禁や拉致といった身体の自由を侵す犯罪の刑も見直すべきだろう。

 犯罪増加対策として、有期刑の上限を一律引き上げることに疑問を投げかける声もある。確かに刑罰強化だけなら、その効果は限られよう。刑の引き上げは法律を改正するだけで済みカネも人手もかからないため、安易に用いられるおそれがある。

 だが、多くの対策とともに実施すれば、相乗効果が期待される。昨年交通事故死者が46年ぶりに8000人台を割り込んだ。道路交通法を改正し酒酔い運転などの罰則を引き上げたのと併せて、免許停止の基準を広げるなど飲酒運転追放の総合的な政策に取り組んだ結果といわれる。

 政府は、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」として凶悪犯罪の罰則整備を打ち出している。そうであればこそ、刑の引き上げだけでこと足れりとせず、治安対策にカネとヒトを投ずるべきである。その支えがあって刑罰強化も生きてくる。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040216MS3M1601716022004.html