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2004年02月13日(金) 00時00分

あなたの医療費 調べると… 東京新聞

 昨春からサラリーマンの医療費負担は三割に増加した。「またこづかいを減らされた」とこぼしているところへ「あなたは払い過ぎているかも」とチェックを呼び掛ける民間業者が現れた。今までお医者さんへの支払額を疑ったことはなかった。でも本当は。そこで最新の医療費事情を探ってみると。

  (蒲 敏哉)

 「病院では通常、患者負担を除いた分を診療報酬明細書(レセプト)に点数化して医療保険請求する。だが、二〇〇一年度だけでも入力間違いや投薬量の記載ミスで、減額査定された額は一千億円に上る。とてつもない数字が間違って請求されている」。病院から提出されるレセプトを、企業などの健康保険組合から依頼され独自に点検する民間企業「日本ヘルスケアビジネス」の織田敏文社長が説明を始めた。

 医療保険は、健康保険組合の場合は社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険は同保険団体連合会がそれぞれレセプトを審査する。整合性が認められると、一点十円として電算処理され、医療機関の指定する銀行口座へ振り込みが行われる仕組みだ。

 織田社長は「わが社は、健康保険組合などに来たレセプトを専門の職員でチェックする。投薬量などに問題があった場合、再び組合を通じ支払基金に再審査してもらう。昨年、百四十三の組合から依頼されたが、約十億円の過剰支払いを発見し、ほぼ全額が認められている。うちは、こうした組合から契約料などはもらわず、見つけた過剰支払いの半分を頂くことで経営している」と解説する。

 さて複雑なレセプトのチェック方法は。

 東京都中央区の同社四階のフロアをのぞくと、約三十人の女性職員が一心不乱に書類のページをめくっている。

 織田社長は「うちの職員は薬効薬価リストなどに習熟している」と強調しながら説明する。

 「例えば、レセプトで漢方薬を一日七三五グラム処方されているケース。物理的にこんな量をのめるはずがなく、保険点数で千八百一点だったのが、チェックで百分の一の十八点の減額査定になる」

■減額1万円超は患者側にも連絡

 さらに「厚生労働省は、減額査定の際、本人の負担分で減額が一万円以上の場合は、医療費の明細部分にその額を明記するよう健康保険組合などに通知している。しかし、実際にこの通知を受けた人はどれほどいますか。ほとんどいないでしょう。だからわれわれが、わずかな額になろうとも『代行しましょう』と提案しているのです。これで年間三億円の利益を見込んでいます」とも。

 こうした企業の出現に、公的にレセプトを点検する立場の社会保険診療報酬支払基金や、国民健康保険団体連合会は複雑だ。

■12兆円分の請求処理は手作業で

 同支払基金の広報担当者は「二〇〇一年度に全国の医療機関から寄せられた請求額は、十二兆円以上だ。膨大な伝票を手作業で処理しており、完ぺきにこなすのは至難の業だ」と話す。

■2002年には8人が医業停止処分に

 全国の国民健康保険団体連合会の上部団体、国民健康保険中央会の担当者は「実は、通院日数の割り増しなど、本当に悪質な架空請求は伝票だけではわからない。結局、給与明細と一緒に記載される医療費通知書をよく見て、不審な金額を自分でチェックするのが一番重要だ」と強調する。

 医師、歯科医師を監督する立場の厚労省医政局は「二〇〇二年中に、診療報酬を架空請求して医業停止処分が決まったのは、全国で八人です。年々少なくなっているのですが…」と苦しげに話す。これらの医師、歯科医師は、総額で約七千万円を不正に手に入れている計算に。

 巨額な“ぼったくり”に、民間の業者に点検を委託する企業の健康保険組合は多い。社員、家族含めて約二十万人を抱えるトヨタ自動車健康保険組合は「支払基金の一次審査以外に、うちと業者でチェックした分だけで、毎年数千万円単位の減額査定が出てくる。支払基金さんは、もっとしっかりしてほしい」と注文をつける。

 財務省共済組合本部も「確かに、うちも一部の支部で点検を民間委託している。もともと支払基金は事務手数料を取って審査している。だから、もっと厳正に業務を行ってもらうのが原則だ。本省でも再審査すると何件か問題が見つかるが、マンパワーにも限界がある。民間委託するかどうかは、費用対効果も考えると悩ましいところ」と苦しい胸のうちを明かす。

 一方、こうした動きに対し現場の医療機関からは反論も起きている。

■書類チェックと現場の判断は別

 「私たちの言い分も聞いてください」と、インターネットで意見を掲げる玖珂(くが)中央病院(山口県)の吉岡春紀院長は「胃かいようでも場合によっては、併用が禁じられている薬品をあえて使う。レセプトの審査で引っかかり、支払基金などに説明し納得してもらうことになる。業者が単に書類をチェックすることと、現場の医療判断は別だ。重箱の隅をほじくるような審査で不正とか過剰請求としてあげつらうことは、いたずらに医師と患者間の信頼を揺るがすことにしかならない」と憤る。

 埼玉県の別の歯科医師は「審査は年々厳しくなっており、不正はすぐ発覚する。圧倒的に多数の医師は悪意なく、過失としてレセプトを間違って提出してしまっているだけ」としながら背景を説明する。

 「医師は大学で治療方法は学ぶが、レセプトの書き方はまったく学ぶ機会がない。さらにレセプトの点数計算が複雑で、厚労省からの点数変更通知もたびたびある。ミスがないほうが不思議なくらい。システムそのものに欠陥がある」

■“取り忘れ”ても言いにくい医師

 同時に「こっちだって、あとから計算し『ああ、もっともらわなきゃいけなかったな』と思いながらも、実際に患者さんの家に電話して『払ってくれ』とは言い難い。それを、民間企業がチェックして請求しすぎと言ってくるのは、理不尽だ」と怒る。

 医療評論家の水野肇氏は「確かに年間一千億円の減額査定が出ているのは大きい。米国では、民間の生命保険会社が医療費を支払う仕組みだ。保険会社が費用を出し渋り、患者が入院を断られるという事態も起きている。今の公的システムが一概に欠陥とは言いがたい。公平性が担保されている部分もある」と分析しながら提言する。

■「割り戻し通知を患者にも確実に」

 「一番守られるべき人たちに対し、公平性が担保されていないのが現状だ。サラリーマンも三割負担になったのだから、患者側への割り戻しについて、一円でも確実に通知する方法を、支払基金や国保連合会が考えるべきだろう」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040213/mng_____tokuho__000.shtml