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国内でがんにかかる人の3・2%は、医療機関での放射線診断による被ばくが原因の発がんと推定されることが、英・オックスフォード大グループが行った初の国際的な研究で明らかになった。
調査が行われた英米など15か国の中でも最も高かった。CT(コンピューター断層撮影法)装置の普及などが背景とみられ、検査のあり方を巡り波紋を広げそうだ。この研究は英国の医学誌「ランセット」で報告された。
研究は、各国のエックス線、CTなど放射線検査の頻度や、検査による被ばく量、さらに年齢、性別、臓器ごとに示した放射線の被ばく量と発がん率の関係についてのデータなどを基に、検査に伴う75歳までの発がん者数を推定した。日本は年間7587件で、がん発症者の3・2%としている。日本以外では、英国、ポーランドがともに0・6%で最も低く、米国0・9%、最も高いクロアチアでも1・8%だった。
日本は、1000人あたりの年間検査回数が最多の1477回で、15か国の平均の1・8倍。発がん率は平均の2・7倍で、1回の検査での被ばく量が他国より高いことがうかがえる。
佐々木武仁・東京医科歯科大名誉教授(口腔放射線医学)は「通常のエックス線検査より、放射線量が多いCT検査の普及が影響している」と指摘する。
CTは、エックス線を使ってコンピューターで画像にする装置。国連科学委員会報告によると、日本は人口100万人あたりの普及台数が64台で、2位のスイス(26台)を引き離し、世界一多い。
CTには年間の検査回数や撮影枚数に制限がなく、機器の精度や技師の腕により被ばく量が異なる。日本放射線技師会は2000年、医療被ばくの指針を定め、撮影部位ごとの目標値を策定。さらに見直し作業を進め、来年度にCT検査の実態調査を行う予定だ。
◆早期発見に革命的な進歩◆
精密な検査が可能なCTは、がんの早期発見をはじめ脳卒中、骨折などの診断に革命的な進歩をもたらした。最近は人体をらせん状に切れ目なく撮影し、通常のエックス線では発見できない数ミリ単位の病変も映し出すヘリカルCT、血管の内部まで鮮明に撮影できるマルチスライスCTも登場している。
一方で、撮影するほど医療機関の収入になることから、数千万円から1億円にのぼる設備投資を回収しようと過剰な検査をする場合もある、との指摘もある。
佐々木名誉教授は「CTは有効な検査であり、今回のデータが出たからと言って必要な検査をせず、誤診や見落としにつながるのでは本末転倒。ただ、超音波検査など代わりの検査が可能かなどを検討し、発がんの危険性も十分考慮したうえで使うよう徹底する必要がある」と話している。
◆放射線と発がん=放射線を浴びると、正常細胞を傷つけることにより、がんを引き起こすとされる。原爆やビキニ水爆実験の被ばく者に白血病などが見られたほか、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の後、近隣住民に白血病、甲状腺がんが急増した、との報告がある。
◆CT=「computed tomography」の頭文字。様々な角度からエックス線をあて、コンピューターで輪切りの画像にする装置。イギリスで開発され、日本には1975年に初めて輸入された。2002年の厚生労働省調査では、全国の病院の保有台数は7920台にのぼる。
肺がん早期発見の効果が注目され、米国では喫煙者ら5万人を対象に、従来の胸部エックス線検査と有効性を比較する臨床試験が行われている。
CT検査による被ばく量は、胸部の場合、通常のエックス線装置の400倍に相当するともされるが、最近は低い放射線量でも精度の高い製品がある。国際放射線防護委員会(ICRP)は「必要がなければ繰り返しの検査は避ける」など検査の要件を示している。