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2004年02月03日(火) 00時00分

宮古そば(福島県・山都町)読売新聞


天日干しによってそばの旨味を引き出す。中庭に玄そばを広げるのは、ばんちゃの仕事 そばの風味と喉越しを堪能 農家そば屋で味わう水そば

 日本の風土、歴史にはぐくまれた料理や、食べ物を紹介するにっぽん食風土記がスタートします。第1回目は、全30軒の農家のうち13軒が自宅を開放してそば屋を営む、福島県山都町宮古地区の宮古そばをご紹介します。会津若松から車で約1時間の、のどかな田園風景が広がるこのそばの里には、十割そばの風味と喉越しを堪能するため、まず最初は水につけて食べるという「水そば」が伝わっています。

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 「東西、東西とめおきまして、お客様の前をはばからず失礼さんでございます」豆絞の手拭いハチマキをキリリと絞めた男衆が、宴もたけなわの目出たい席で、会津伝来のそば口上を面白可笑しく節を付けて語り始める。

 会津地方では、婚礼や年取りと呼ばれる節目節目の儀式などのハレの宴会には欠かせぬ古くからの風習である。この地方では、そばは、単なる米の代用食や救荒食だけでなく、親類縁者をもてなすための振る舞い料理でもあるのだ。

 そのもてなしのそばを今も昔ながらの佇まいの中で味わえるのが、霊峰飯豊山山麓に位置する山都町宮古地区である。北海道、鹿児島に次いでそばの作付け面積第3位を誇る福島県。その中でもきってのそばの産地として知られる所である。



刈り取ったばかりのそばの実  宮古川の清流沿いに30数軒の農家が点在。いずれも、懐かしい風情あふれる古民家である。うち13軒が座敷を開放して、各家々に伝わるばんちゃ(お婆ちゃん)直伝のそばを出す。

 「むがしはなぁ、冬の間出稼ぎにいがなくっちゃなんねぇべ」と、厳しい時代に思いを寄せながら語るのは、元祖宮古そば処なかじまのご主人、唐橋克巳さん(80歳)。ほんの10数年前まではこれといった産業もなく、男衆は出稼ぎで村を離れざるを得なかった。少しでも村おこしになればと、伝来のそばを一般客に振る舞い始めたのがきっかけで、次第にそばのうまさが口コミで広がり、そばの里として知られるようになった。

 どこの店も、味わえるのは十割そばのみ。とりたててそばにこだわってきたからというより、昔は小麦粉が高級品で手に入らず、つなぎに入れることもままならなかったからだ。

 ご主人手打ちのそばを食べてみる。始めに、作家・村松友視氏が命名したという湧き水・夢見乃水につけて食べるのがここのしきたり。水につけたそばのひんやりとした咽越しと共に、ほんのり香るそば本来の風味が心地よい。続いて、本節だけでなく、ソーダ節やサバ節も加えて、しっかり塩慣れさせたまろ味あるつゆをつけて味わう。

 「たんとあがってくんなんしょ」の甘言につられてついついお代わりを連発。思わず「腹くっちい(満腹)!」と、膨れたお腹をポン!「ほんに、ごちそうさまでやした」。(文・写真/藤井勝彦)


【交通】磐越西線山都駅から車で約20分/盤越道会津坂下ICから国道459号線経由で約45分

【お店紹介】元祖宮古そば処なかじま 0241-38-2579/11時30分〜15時30分/火曜休(予約が入れば水曜休)要予約/もりそば700円、コースは2500〜3500円

旅行読売2004年1月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd040101.htm