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2004年01月27日(火) 00時00分

BSE全頭検査を考える<上> 東京新聞

 牛海綿状脳症(BSE)感染牛が発生した米国から牛肉輸入を再開するか、日米協議の行方が注目されている。そのカギを握るのは「全頭検査」。日本では、この方法で牛肉への信頼を回復したが、米国は、実施を渋っているからだ。だが、ここにきてさらに「安全のためには全頭検査だけでは不十分」という科学者らからの声も聞こえてきた。どういうことなのか。消費者として、この問題をどう考えればいいのか。 (岩岡 千景)

 「全頭検査を行っていればすべて安全というのは、誤解にすぎない」

 こう話すのは国際獣疫事務局(OIE)名誉顧問の小澤義博さん。国連農業食糧機関(FAO)家畜衛生課長などを歴任。BSEについて一九八六年に英国で発生して以来、専門のウィルス学、獣医疫学の立場から研究してきた第一人者だ。

 他の取材でも、同様の意見を聞いた。あるBSE研究者は「反響が大きすぎるので」と匿名ながら「現在の検査技術では、BSEを把握できるのは実際の感染牛のほぼ半数だろう」と次のような説明をしてくれた。

 ——現在の検査は、BSEを引き起こす異常プリオンが蓄積しやすい牛の脳の一部(延髄)を切り取り、まず都道府県レベルでエライザ法(酵素免疫測定法)でチェック。疑わしい場合(陽性)は東京の国立感染症研究所に送り、より厳密な方法で検査する。

 欧州の全頭検査実施国では、異常プリオンが牛に蓄積して発症の可能性のでてくる二−二歳半の牛から検査しているが、日本では、それより若い牛も全部検査している。

 だが、現実の問題として、サンプルの延髄に異常プリオンがある程度蓄積しないと、検査で陽性反応は表れない。しかも反応が出る期間は発症の三−六カ月前から。サンプルの採り方を誤ると陽性が陰性になる可能性もあり、感染牛でもプリオン濃度が低い場合や、人為ミスの場合は見逃されることがある−。

 といって、研究者たちも、全頭検査が不要といっているわけではない。

 例えば前出の小澤さんは「欧州同様、全頭検査は三十カ月以上の牛の全頭で十分。それにより節約された経費を、より迅速で感度の高い診断法や、安全対策の開発に充てた方が有効」と指摘する。「安全確保のために一番大切なのは、危険部位の完全な除去。日本が米国に要求すべきはより安全な解体、流通法を確立し、監視、評価する体制を整えること。日本人は、若年牛も含めた全頭検査にこだわることで本当の意味での安全対策を見逃している」とも。

 小澤さんは、米国BSE発生に当たり国の食品安全担当者に「全頭検査をしないと安全を保てないという日本のスタンスは国際的に理解されにくい」と伝えたという。

 案の定、米国は「日本が要求する全頭検査は非科学的」(農務長官)と強く反発してきた。

 海外と日本で全頭検査への認識にズレがあるのは、導入の経緯が異なるためだ。日本ではBSEが発生した直後の二〇〇一年十月に厚生労働、農水両相の「安全宣言」とともに導入された。

 だが、例えば英国ではまだ迅速検査法のなかった一九九〇年ごろから、マウス実験で特定危険部位を研究。「危険部位除去後の肉は安全」という認識が広がり、それを取り除く方法の確立に努めた。EU(欧州連合)も三十カ月以上の牛の全頭検査をしているが、BSE感染の範囲や増減を調べる疫学調査のためが主。

 では米国に全頭検査を要求するのは無意味なのか。

 食の問題に詳しい新山陽子京大教授(フードシステム論)は「いろいろ批判を浴びつつやってきた日本の全頭検査だが、結果としてこの間、若齢の牛からも発見できた。イタリア、フランスでも若齢牛から発見されている。BSEには未解明の部分も多いので、若い牛も含めた検査の意味について、国は関係者も含め、きちんと検討することが必要ではないか」。

 小澤さんは「米国のBSEを疫学的に調査するためもっと検査を増やすよう要求するのは正論」だと話している。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040127/ftu_____kur_____000.shtml