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千葉県佐原市の養鶏農家、香取孝治さん(39)の鶏舎内で鶏が自由に歩き回る。産みたての卵を手にしながら、香取さんは苦々しい顔で言った。
「うちは採卵日もきちんと表示していますよ。農家が同じようなことをやってると消費者に思われるのが一番困ります」
京都府城陽市の山城養鶏生産組合が冷蔵庫に保管していた卵の採卵日などを偽装表示して出荷した“事件”。鳥インフルエンザの発生も重なり、消費者離れを心配する。
香取さんは、会員制で農産物の宅配を行う株式会社「大地」(東京都調布市)と取引する一人。取引農家は食品衛生法で義務づけられていない採卵日も自主的に表示するなどの情報公開で消費者の信用を得ている。
同社では年に一回、全国の生産者の集まりや消費者向けに生産現場の見学会を開き、日ごろも生産者との情報交換を怠らない。同社畜産担当の前田寿和さん(39)は「生産者が正直に自信をもって表示することが大前提。そのためには信頼関係ができるよう日々、積み重ねることで、生産者にも消費者にもわれわれにも安心を生むのです」。
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こうした生産者の“顔”が分かる卵は増えつつあるが、消費者の多くはスーパーなどで毎日のように入荷するパック詰め卵を購入する。その際、賞味期限や値段を見ながら選ぶだけで、産卵から流通、出荷調整の実態は見えてこない。どうなっているのだろうか。
養鶏業者によると、卵は農家から各地域にある鶏卵選別包装施設(GPセンター)に運ばれて、殻に付いたフンなどを洗浄、シールやラベルで賞味期限を表示しパック詰めして出荷されている。
養鶏は一年から一年半の間、ほぼ毎日卵を産み続けるが、本来、産卵率(卵を産む鶏の割合)は気温や鶏の年齢によって変わる。夏や冬へと向かう季節の変わり目に急に気温が変わると数日間、産卵数が減ったり、産卵しやすい鶏の数によっても採卵数は変わるが、大規模な施設は温度や光量などの管理をして、「平均80%程度の産卵率を保っている」(神奈川県畜産研究所)という。
生産者側がそうした安定供給に努める一方で、消費量の方は夏場に落ち込み、クリスマスや正月から春にかけて増えるなど大きく変動する=グラフ参照。そこで出荷調整を必要とする業者が出てくるという。
この出荷調整や保存用に冷蔵庫を持つ組合や業者は少なくない。今回の偽装表示は冷蔵保管が利用されたが、「一般的に生食用なら翌日、加工用なら十日くらいまでは保存する」とある業者。
しかし、長期間の採卵日のごまかしは「特異なケース」のようだ。京都府は二十日、食品衛生法違反で山城養鶏生産組合を一週間の営業停止処分とした。
卵好きが高じてホームページ「たまご博物館」を開設する高木伸一さん(45)は「何の表示が義務づけられようと結局、守るのは人間。生産者内部に監査的機能が働いていなければどうにもならない」と指摘する。
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卵の価格はこの三十年、ほとんど変わらず「物価の優等生」と言われてきたが、生産農家にとっては厳しい。
こんな中、大地の卵は一個四十五円と、一般の小売価格の倍以上。平飼いで、収穫後に農薬を使っていない餌を与えるなど安全を追求すると、この値段になるという。
やや高くても「安心・安全のコスト」と受け止め、産直やネット販売などでこだわりの卵を求める消費者は増えている。
日本消費者連盟(新宿区)の富山洋子代表運営委員は「安さが当たり前になったのとともに、消費者は卵を見る目や判断基準を失ってきた。小売りでもさまざまな卵があり、自分の目で確かめて安心な卵を選んでほしい」と提案する。
前出の前田さんも同じ意見で「消費者にとっては、トレーサビリティー(生産履歴をたどれること)が最大の安心につながる。採卵日の表示も法律で義務づけてほしい」と期待する。
(鈴木 久美子)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040124/ftu_____kur_____000.shtml