2004年01月22日(木) 13時25分
社説2 薬のテレビ電話販売阻むな(日経新聞)
情報技術が発達しても、既得権益勢力に阻まれて消費者がそれを利用できないなら、何の意味もない。
テレビ電話を活用し薬剤師が客の相談に応じる形で、深夜や早朝でも薬を販売するのを認めるかどうか、厚生労働省医薬食品局長の依頼を受けて審議してきた有識者の報告がほぼまとまった。事実上の厚労省案である。報告書はこの販売方法を原則認めるが、厳しい運用条件をつけている。このため、多くのドラッグストアなどは実施を見送る方向だ。
例えば、深夜・早朝に売るときは必ず薬剤師がテレビ電話を通じ対面販売しなければならない。昼間は一般の店員が売っている店でも深夜はなぜ薬剤師が売らなければならないのか理解に苦しむ。風邪が流行し深夜に客が多い日などは、テレビ電話の前に行列を作り順番を待たなければならないだろう。対面販売を義務づけるのは行き過ぎではないか。
また都道府県ごとに薬剤師のセンターの設置を義務づける。万一の事故に備え行政の責任の所在を明確にするという趣旨らしい。だがテレビ電話の便利さは遠くても対話できる点にある。大きなチェーン店が1カ所に薬剤師センターを設け、県をまたいで広い範囲の店舗を訪れる客に対応すれば効率はよい。むしろ新しい販売方法に合わせて行政監督の在り方を見直すべきであろう。
深夜・早朝の来店客が昼間と同じぐらい多い店には、深夜・早朝でも薬剤師を置くよう求めている。この問題の発端になった大手小売店チェーン、ドン・キホーテ社の場合、深夜・早朝の客がわりあい多いので、事実上、テレビ電話販売を認められないかもしれないとみている。
これほど厳しい条件がつくと、テレビ電話販売を阻むための報告書とさえ思える。有識者の22日の会合では1年ほど試行的にこの条件で認め、その後で再検討するとなったが、再検討するなら、初めから緩い条件で認めて弊害がないことを確認するというのが筋ではないか。
厚労省は「薬は本来、薬剤師のいるところで売るもの」と、深夜・早朝のテレビ電話販売に条件がつくのは当然との説明だが、果たして本音だろうか。薬剤師の既得権益擁護の狙いを疑いたくもなる。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040122MS3M2200X22012004.html