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2004年01月12日(月) 00時00分

法廷通訳 劣悪処遇 報酬明細なし、金額は判事のさじ加減… 東京新聞

 仕事の対価がいくらなのか、事前に明かされない。仕事が終わるまで報酬が払われない。明細がなく、正しく計算されているかも分からない−。そんな不明朗な労働環境に置かれている人たちがいる。「法廷通訳」である。雇い主は各地の裁判所。増え続ける外国人裁判の“黒子”を務める通訳者の報酬はずっと、判事のさじ加減一つで決められてきた。「法の番人」である裁判所で続く異常な事態を追った。 (社会部・加古陽治)

 ■外国人裁判で出番増加でも

 「これでは、詳細が分からないでしょ。何で裁判所に言って明確にしてもらわないのか」

 首都圏を中心にアジア系言語の法廷通訳に携わる女性は昨年、税務調査を受けた際、厳しくとがめられた。反論はできなかった。明細には支払われる総額が書かれているだけ。「日当」も、必要経費となる「交通費」も明記されていない。おかしいと思うが、裁判所に言ったところで「のれんに腕押し」なのだ。

 法廷通訳は裁判所に行くと、金額の記載されていない請求書にサインを迫られる。書かれる金額は、もらってみないと分からない。「白紙調書にサインしているようなものです」と、女性は自ちょう気味に言った。

 欧米系言語の法廷通訳に、振り込み通知のはがきを見せてもらった。東京地裁の場合、担当部の名前と報酬の総額、「出頭日」しか記載されていない。別の地裁では担当部と出頭日がない代わりに、「事件番号」と総額が記されているだけだ。

 「どうしてこの額になったのか、理由も示されない。以前、報酬が大幅に切り下げられた時も、通告なしでした。警察や入国管理局では、一時間いくらとか、深夜料金がいくらとか示されるんですけど…」(在日アジア系外国人の法廷通訳)

 交通費の基準もよく分からない。新幹線料金も出す裁判所と出さない裁判所がある。国選弁護人に同行しての接見では、長時間待たされたり、キャンセルされることもあるが、待機料はなくキャンセル料はまれに出るだけ。裁判が長引けば終わるまで何年も報酬が支払われないこともある−。

 疑問をただそうとした通訳に、ある裁判所の書記官は「上の者が下の者に言う必要はない」と言い放ったという。

 基準を決め明細を出すぐらいのことを、裁判所はなぜしないのか。

 「報酬は、裁判所が事件の内容や時間を総合判断して定めることになっているので一律には決められないんです。最高裁が基準を定めたら、裁判官の独立に対する干渉になる」。最高裁刑事局の稗田雅洋・二課長はこう説明する。短時間で通訳できるため、能力の高い人ほど報酬が安くなる矛盾についても「意見があるのは知っているが、最高裁が基準を示すわけにはいかない」の一点張りだ。

 確かに刑事訴訟費用法は、通訳料は「裁判所が相当と認めるところによる」と定めている。だが、こうした法廷通訳の在り方は、民間から見ると明らかにおかしい。

 大手通訳会社サイマル・インターナショナルの藤井ゆき子ゼネラルマネージャーは「時給ではなく、半日か一日の料金が原則。金額を決めない契約はありえず、キャンセルがあれば当然キャンセル料をいただきます」と話す。派遣した通訳には日当や交通費、ホテル代などを含めた明細が渡されるという。

 外国人弁護の経験が豊富な関聡介弁護士は「言われるままに料金を受け取れ、という『お上の論理』。通訳の弱い立場につけこんで、この状態を放置するのは正義に反する」と裁判所を厳しく批判する。そして、いっこうに現状を改善しようとしない裁判所に「法を改正しても改めさせるべきだ」と語った。

 ◇法廷通訳

 外国人被告の裁判や、外国人が証言する際、法廷で通訳や翻訳をする。各裁判所に備え付けられた名簿から担当する裁判官が任命する。最高裁によると、昨年4月1日現在の名簿登載者数は、全国で46言語、3635人。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040112/mng_____kakushin000.shtml