2004年01月10日(土) 12時29分
社説 気がかりな止めどない労働組合の衰退(日経新聞)
今年も賃金引き上げ交渉を中心とする「春闘」は実質的に無い。2年前に連合が要求基準から「ベースアップ」という言葉を削り、主要組合の要求断念やベアゼロが続出して春闘は有名無実となった。
厚生労働省の調査によると、昨年6月末時点で全国の労働組合の推定組織率は初めて20%を割って19.6%に落ち込んだ。一向に歯止めがかかる気配が無い。労働組合の存在感はますます薄れそうだ。
組織率20%割り込む
労働組合は工業化社会の産物だから衰退は必然との見方がある。実際には様々な要因が絡まっており事情は複雑だが、既存の労働運動が時代からずれていることは否めない。ただこれまでの労組の役割を顧みると、気がかりな傾向である。
企業にとって、企業別組合は交渉相手であると同時に生産性向上などでのパートナーである。健全な労組は職場の意見を集約して、経営をチェックする機能を担う。しかし組合員の減少や無関心層の増加による労組の弱体化は、企業を支える労使関係の基盤を掘り崩しかねない。
社会的にも、もの申す役割を十分に果たせなくなる恐れがある。労働組合員の雇用者全体に対する比率が5人に1人を割り込む状態がさらに進めば、働く人たちの代表としての正統性が揺らぐ。
グローバル化や規制改革の進展で市場原理が一段と浸透するのに伴い、企業や政府、使用者団体などに対抗する何らかの力が均衡を取るうえで必要である。労組がその任に堪えなくなる可能性はゼロではない。
現在の地盤沈下のすう勢は深刻である。「労働組合の力のバロメーター」と連合の笹森清会長が気にする推定組織率の推移が象徴的だ。1947年以降の統計を見ると49年の55.8%をピークに、高度成長期は30%台で上下していたが、75年の34.4%から一貫して下がり続けている。ここ9年連続して労働組合員数も減っており、労組の退潮傾向をはっきり示している。
先進諸国を見ると、組織率は80—90%の北欧諸国からフランスの8%程度まで開きがある中で日本は低い方に入る。北欧を除くと総じて低下傾向で、米国では80年代初めまで20%台を保っていた組織率が現在約13%まで下がっている。
米国に足並みをそろえる格好の日本で、ここへきて衰退傾向に拍車がかかっているのは、構造的な理由があるからだ。経済の構造変化に伴う雇用の多様化に労働組合が対応できていないためである。
業種別で組織率がもともと高いのは製造業、公務員関係などである。企業規模では従業員1000人以上の企業の雇用者の組織率が52%弱なのに、99人以下の企業では1.2%にすぎない。主流は大企業の正規従業員による企業別組合である。急増するパートタイマーや契約社員、派遣社員などの非正規従業員のほとんどは未組織である。中小のサービス業や流通業の大半は組合がない。
既存の組合も求心力の低下に悩んでいる。要因としては、賃上げなどの経済的要求で成果が上がらなくなり、直接的なメリットが減って組合員の関心が薄れたことが大きい。
大企業の経営者はほとんどが元組合員で組合幹部だった人もいる。労使とも同じ社員という意識が強いので、経営について意見が一致しやすい。これは良い点でもあるが、連合総合生活開発研究所の調査によると「組合が会社に譲っている」とみる組合員が半数を占める。
リーダーは危機感持て
製造業を含めて全体にホワイトカラーが増え、成果主義による人事管理などにより組合員意識はますます弱まっている。現代総合研究集団の組合員調査では、「生活の支えや安定」のために最も重視するのは「自分の技能や知識」(47%)で「労組の頑張り」は11%にとどまる。
こうした流れを変えるのは容易ではないが、組合組織も多様化して雇用形態の変化に合わせなければならない。連合に昨年加盟した全国ユニオン(組合員7000人)を構成する九組合は、企業別組合とは異なり非正規従業員などが個人で加入できる。組合員の出入りが激しく、課題はまだ多いが一つの試みである。
既存の企業別組合も、春闘頼みから脱して、運動を早急に再構築すべきだ。電機産業の組合が集まる電機連合は、組合員のキャリア形成に組合が貢献する道を模索している。電機連合がメーカーの協力を得て始めた独自の研修制度「職業アカデミー」はその一環である。
社会的な労働運動を活性化するためには、連合などの全国組織や産業別組合組織の強化が必要である。
やるべきことはたくさんあるが、全体の動きは鈍い。組合リーダーは危機感を持って行動を起こすべきだ。成り行きに任せれば、労働組合は忘れられた存在になりかねない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040110MS3M1000S10012004.html