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◆崩壊
「夜明け間際の吉野家では…」の歌い出しで始まる歌がある。中島みゆきさんが一九七九年に発表した「狼(おおかみ)になりたい」。未明の吉野家に集う市井の人々を描写した曲で、数多い中島さんの作品の中でも、ファンの人気が高い。
二十四時間営業だからこそ、夜明け前の風景が歌になった吉野家。だが、この舞台設定が崩壊しつつある。牛丼の提供を長く続けるため、吉野家は約九百八十店の二割弱に当たる百七十四店の深夜営業を中止したのだ。解雇されたアルバイトはいないが、一部の従業員は二十四時間営業を続ける他店に配転された。
「外食の横綱」はなぜ、つまずいたのか。それは、年間三万トンに上る使用牛肉のほぼすべてを米国からの輸入に頼ってきたからで、輸入停止が続けば、二月中旬にも在庫が枯渇する。安部修仁社長は豪州産牛肉への切り替えも検討したが、昨年末の記者会見で「豪州産ではブランド力が保てない」と強調。当面の切り替えを断念した。
脂身の多い米国産牛肉に対し、豪州産は赤身が多い。牛丼に豪州産を使えば味が変わる。豪州の牛は主に牧草を食べるが、米国は豆類など穀物が餌。肉の質が違う。
◆明暗
米政府がBSEに感染した牛が見つかったと発表したのは、日本時間で昨年十二月二十四日。その後、吉野家の株価は急落した。七日の株価でみると、感染牛が見つかる前の十二月二十二日との比較では、8・8%値下がりしている。すき家を経営するゼンショーの株価も8・9%の下落だ。
ところが、同じ牛丼チェーンの松屋フーズと、なか卯(う)の株価は上昇している。主要牛丼チェーンはいずれも牛肉をほぼ100%、米国から輸入しているが、明暗を分けたのはメニューの違いだ。吉野家は単品主義を貫いてきたが、松屋フーズには魚や鶏肉を使った料理があり、なか卯も親子丼やめん類を置く。
なか卯は十年前、売り上げの六割を牛丼で稼いだが、現在は牛丼が三割で親子丼が二割。広報担当者は「単品商売はリスク(危険)が大きいと考え、見直しを進めてきた」と話す。
◆リスク
「豪州やニュージーランドでも、いつBSEが出るか分からない」。昨年暮れの自民党の部会。牛肉輸入が抱えるリスクの大きさに国会議員の一人が声を上げた。牛丼とは対照的に国内のハンバーガー店は、ほぼすべての牛肉を豪州から輸入している。日本マクドナルドも、牛肉はすべて豪州で調達し、現在も、輸入先の分散などは検討していない。
マクドナルドは十年前まで、複数の国から牛肉を輸入していた。しかし「値下げ競争に勝ち残るため豪州産の一括輸入に踏み切った」との見方は多い。二〇〇一年に牛丼の「並盛」を四百円から二百八十円に値下げした吉野家も、価格競争の主役を演じてきた。
デフレ下での競争を勝ち抜くため、輸入先を集中する経営戦略を余儀なくされた外食業界。だが、景気が回復基調に入り、消費者も価格以外の価値観を求め始めている。こうした中、一九八〇年に破たんし二〇〇〇年に再上場を果たした「企業再生のお手本」の吉野家は今後、どう危機を乗り切るのか。具体策はまだ見えていない。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040108/mng_____kakushin000.shtml