2004年01月07日(水) 13時24分
春秋(日経新聞)
東京・JR四ツ谷駅前の主婦会館に、実験器具を持つ白衣の女性の写真が飾ってある。亡くなった主婦連合会元会長高田ユリさんの40数年前の姿だ。しゃもじを手に値上げ反対を叫んできた消費者運動が科学的・合理的な運動に変わる象徴的シーンでもある。
▼化学出身の経歴を買われ、初代会長・奥むめおさんに呼ばれた。喫茶店2階の「実験室」に行くと、あるのはガスコンロと流しのみ。そんな出発点が、やがて有害物質を含むユリア樹脂製の食器や、不当表示ジュースの摘発などに発展した。
▼「いつ電話しても、居場所は商品テストの部屋」とは先輩記者の証言だ。社会的責任や倫理観の未熟な企業に反省を迫る「すっぽんのユリ」に、震え上がった関係者も多かろう。トップを支えて副会長歴は31年に及ぶ。だが1980年代末、会長の座に就いた時、高齢化著しい主婦連に昔の輝きは無かった。
▼規制緩和の時代に規制強化を訴え続ける頑(かたく)なさ。運動が世間にそっぽを向かれた要因だろうか。ただ時代は進歩しているようで、蒸し返しの連続でもある。これも主婦会館にある高田さんの写真。牛肉と表示された缶詰の中身が鯨肉や馬肉だったという60年の「うそつき缶詰事件」での一場面だ。今もはびこる類似事件に、なお働き足りない思いだろう。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040107MS3M0700C07012004.html