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2004年01月07日(水) 02時32分

呼び方に潜む差別性 ハンセン病「元患者」呼称見直しへ西日本新聞

 熊本県南小国町のホテルによるハンセン病療養所入所者の宿泊拒否事件を機に、ハンセン病の「元患者」という呼称が論議を呼んでいる。「とっくに完治しているのに、なぜ『元患者』と呼ばれなければいけないのか」という入所者らの「叫び」に関係者が気付き始めたからだ。潮谷義子熊本県知事と坂口力厚生労働相は、新たな呼称を検討する考えを示した。偏見と差別の意識と結び付いた「元患者」という呼称。取材班もどう表記すべきか、考えている。 (ハンセン病問題取材班)

■つきまとう「病歴」 偏見解消こそ解決の道

「痛み」に動く

 「(ハンセン病が治った人たちが)元患者という使い方に抵抗を持っていることが分かった」

 仕事始めの五日、熊本県庁。年頭会見で呼称見直し方針を明らかにした潮谷知事は、その理由を語った。

 知事の頭にあったのは昨年末、自らも出席したハンセン病シンポジウム。席上、ハンセン病が治癒した人たちから「元患者」と呼ばれることへの抵抗感が吐露されたからだ。パンフレットなどで「元患者」の呼称を使ってきた県は「不快に感じる人がいる以上、今後は使わない」(健康づくり推進課)と明言した。

 当事者の「痛み」に目を向けた知事発言に、国も反応した。坂口厚労相は六日の会見で「よく現場を観察された上での意見だと思う。いい提案と受け止めたい」と見直しの趣旨に賛同した。

「患者は悪」か

 「交通事故に遭い、その後回復した人を元交通事故者とは言わないはずだ」「元患者と呼ばれるのは、完治しても普通ではない、患者は悪だという意識が残っている証し。マスコミも考えてほしい」

 昨年暮れ、呼称問題について意見を求めた取材班に対し、ハンセン病訴訟西日本原告団副団長の志村康さん(70)はこう言った。

 本紙記事をデータベースで調べた。「元患者」の表記が最初に登場するのは一九九七年四月、「らい予防法廃止から一年」の検証記事だった。それ以前は「患者」との表記が目立つ。国内ではハンセン病は制圧され「患者」はいないから、誤解される恐れのある表記を改めたようだ。

 ところが、今回の宿泊拒否事件は、ハンセン病が治った人たちが「元患者」として差別された。「元患者」は「治った人」を意味するのではなく、過去の病歴で人を不当に区別する言葉として使われた。私たちは「元患者」の呼称がハンセン病を特別視した言葉だと気付かされた。

「枕詞」は不要

 では、どう呼ぶべきか。県は五日、国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」の太田明自治会長(60)に「『回復者』と呼ぶのはどうか」と投げかけた。

 しかし、太田会長は「『元患者』よりましだが、やはりマイナスイメージがある」と違和感を示す。「回復」という言葉も「元患者」と同様に、過去ハンセン病だったことを前提にした表現だからだ。「完治者」「治癒者」などもそうしたイメージがつきまとう。

 志村さんは、園内の住宅街で普通に暮らす市民として「現段階では『在園者』が最適ではないか」と提案する。ただ、「療養所の入所者はかつてハンセン病を病んだが、今は治った。もう枕詞(まくらことば)は必要ない」というのが本当の思いだ。

 取材班は今後、「元患者」の表記をできる限り使わず、当事者の気持ちを聞きながら、よりよい表現を模索しようと考える。

 ただ、逆説的にこうも自省する。いくら呼称を変えても、ハンセン病に関する差別の実態をなくさない限り事態は解決しない。呼称問題の本質はそこにあるのではないか、と。(西日本新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040107-00000024-nnp-kyu