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2004年01月05日(月) 00時00分

『裁判員制度』 どうあるべきか 東京新聞

 選挙人名簿から無作為で選ばれた人が裁判員として刑事裁判に加わる「裁判員制度」をめぐり、自民、公明両党の与党協議が7日から再開される。だが、裁判官と裁判員の人数比、裁判員の守秘義務など根幹部分での意見対立は深い。司法制度改革の目玉として導入される新制度はどうあるべきなのか。元最高裁判事、市民団体代表、弁護士の3氏からそれぞれ話を聞いた。 (社会部・鬼木洋一)

■元最高裁判事 園部逸夫氏 人格にじむ判決を手助け

 裁判の合議体の人数比は、政府検討会の座長試案、自民案がそろって「裁判官三人、裁判員四人」を打ち出しているが、とりあえずこれぐらいの人数バランスで出発するのがよいと思う。裁判員が少なすぎる、との批判もあるが、もとはゼロなのだから大変な改革だ。司法改革の動きがなければ、これだけの素人を入れるという発想は、裁判官や検察官などからまず出てこなかったろう。

 今まで密室で仲間内だけで判断していた裁判に、裁判員が一種の監視役として加わるのが制度の趣旨だろう。民間企業に社外取締役や監査役が入っているのと同じで、裁判員の役割は重要だ。ただ、専門知識などで素人には立ち入れない領域があり、国民はやはり相当な部分をプロの法律家に任さなければならない。

 現行の裁判で、判例が重視されるのは事実だが、判決を出す上で最後にカギを握るのは、知識、経験、社会的関心などを結集させた個々の裁判官の人格。裁判員から直接、意見を聞けば、裁判官は「そういう意見もあるのか」と考えるようになる。周囲の助けで、裁判官の人格がより前面に出た判決になるはずだ。

 裁判員は本来、立ち入れない場所に入るのだから、職務を終えても評議の秘密は守ってもらわねば。だれが死刑を発意し、賛成したのかが分かれば、だれも本音を語らなくなり、評議は硬直化してしまう。 (談)

 ◇そのべ・いつお 京都大助教授から判事に転じ、最高裁上席調査官などを歴任。筑波大教授などを経て、一九八九年、最高裁判事に就任。九九年に定年退官し、弁護士登録。七十四歳。

■「市民の裁判員制度つくろう会」代表世話人 片山徒有氏 参加増やし、実体験生かせ

 裁判をする合議体の人数比について、裁判官三人に対し、裁判員を四人くらいにする案が有力になっているが、これでは、裁判員は単なる「お飾り」になってしまう。法律知識、キャリアで圧倒する裁判官の影響力が強くなりすぎる。

 人が人を裁くという重要な仕事を国民に託すのなら、裁判所を高圧的な雰囲気にしてはならない。「市民の裁判員制度つくろう会」で、さまざまな人数比で模擬裁判を試みたことがあるが、裁判官一人、裁判員十一人で評議したときが、最も活発に市民から意見が出ていた。

 さまざまな経験を持つ国民がたくさんいた方が、柔軟な発想は生まれやすい。裁判員が多ければ、その中に貴重な実体験を伝えられる人が一人でもいるかもしれない。その一人の声によって裁判官、裁判員の意見が一変する場面もあるだろう。

 裁判員を守秘義務で縛ることにも反対だ。貴重な体験は、社会で共有されるべきだ。検察審査会の審査員に選ばれた人から話を聞いたことがある。「自分が経験したことを職場や地域社会で語るまで、任務が終わったとは思わない」と話していたのが印象的だった。

 制度定着のために、裁判員に選ばれた人にオリエンテーションを行ったり、裁判官と同等な報酬を保証するなど、国民への配慮が欠かせないのはもちろんだ。 (談)

 ◇かたやま・ただあり 九七年、当時八歳だった息子隼君の交通事故死をめぐり、被害者不在の司法制度の実態を告発。被害者や遺族の立場を尊重した法整備が進むきっかけをつくった。デザイナー。四十七歳。

■弁護士 弘中惇一郎氏 守秘義務は検証機会奪う

 現時点における制度導入そのものに反対だ。刑事裁判の手続きは、捜査と公判が表裏一体の関係にある。不当に身柄勾留(こうりゅう)を続け、自白を強要する「人質司法」などの捜査実態には何も手を付けず、公判だけをいじるのでは弊害が大きくなる。

 裁判員制度の対象になるのは、殺人や強盗殺人といった重大事件だが、忙しい会社員、主婦らが参加するので審理期間はぐんと短くなる。だが、裁判が始まる時点における力関係は、さまざまな証拠の収集を終えている検察側が、弁護側を圧倒しているのが実態だ。

 マラソンにたとえれば、弁護側はスタートで既にトラックで何周か差をつけられている状態。これまでなら、あと何キロか走っている間にさまざまな矛盾を発見し、無罪が勝ち取れた。制度導入によってあと三百メートルで終わり、となれば、検察側に追いつくのは不可能になってしまう。

 裁判員に生涯にわたる守秘義務を課す案が検討されているが、これも問題だ。経験者には、プライバシーに触れない範囲で、マスコミなどに率直に意見表明してもらわなければ困る。「この程度の証拠で死刑にしていいのか?」「意見をないがしろにされた」といった疑問や不満も出るはずだ。まったく新しい制度について、何の検証もできなくなるのはあまりに危険だ。それに、貴重な体験を国民に還元できなければ、制度導入の意味が失われる。 (談)

 ◇ひろなか・じゅんいちろう 東京大法学部卒。医療過誤や人権・プライバシー事件を手がける。ロス疑惑事件や、薬害エイズ事件の安部英医師の弁護人。五十八歳。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040105/mng_____kakushin000.shtml