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2004年01月03日(土) 01時08分

1月3日付・読売社説読売新聞

 [決断の年]「超高齢社会への備えを急ごう 世代対立を超えて」 

 【少子高齢化の重い現実】

 日本の行く手には、「超高齢社会」という巨大な氷山がそびえ立っている。

 衝突をさけるには、大胆に舵(かじ)を切るしかない。だれもが、そのことを理解しながら、小手先の微修正を繰り返しているのが日本の現実である。それが、国民の将来不安を一層、高めている。

 少子化と高齢化が同時に、しかも世界最速で進む日本の未来は、確かに明るい、とは言い難い。厚生労働省がはじき出す天文学的な社会保障費の将来推計に、たじろがない人は少なかろう。

 しかし、少子化にしろ、高齢化にしろ、先進国共通の現象であり、「豊かさの証し」である。少子高齢化自体が問題なのではなく、少子高齢化への備えを怠ってきたことこそが、問題なのだ。

 日本の少子高齢化のスピードは際立っている。国民皆年金と医療の国民皆保険がスタートした一九六一年、総人口に占める六十五歳以上の高齢者の割合は6%だった。

 それが今や19%と、世界最高水準に達した。平均寿命は、男性が十二歳、女性は十五歳も延びた。

 人口構造の変動で、社会保障制度は維持が難しくなった。にもかかわらず、政治は国民に痛みを求めることを嫌い、先送りと、わずかな手直しでしのいできた。

 日本はまもなく、人口減少社会に突入する。「給付は厚く、負担は軽く」では立ち行かないことに、国民は気付いている。政治は勇気を持って、国民に改革の痛みを語り、社会保障の明確なビジョンを打ち出す責任がある。

 【限界にきた“現役頼み”】

 若い世代を中心に“損得論”がかまびすしい。昨年の経済財政白書は、生涯を通じた受益と負担の関係を取り上げ、六十歳以上は六千五百万円のプラスだが、二十歳未満は五千二百万円のマイナス、との試算値を公表した。

 社会保障に損得論はなじまないが、極端に大きな格差は是正すべきだ。

 社会保障制度は、現役世代が高齢者を支える世代間扶養を前提としてきた。国全体が若く、高齢者が少ない時代は、うまく機能した。

 だが、前提は崩れている。支え手の現役世代は減り、給付を受ける高齢者は増えていく。現役世代に負担が集中する世代間扶養の制度では到底、持たない。現役世代だけに頼るのが無理なら、高齢者にも支え手に回ってもらうしかない。

 高齢者の平均的収入は、現役世代と比べ、さほど見劣りしない。低所得者に配慮しつつ、支払い能力のある高齢者には応分の負担を求めるべきだ。高齢者を一律に弱者とする見方は改めたい。

 年金課税の強化や高齢者医療の自己負担増などは、こうした考え方に基づいている。「世代間扶養」は大切だが、高齢者同士が支え合う「世代内扶養」をもっと広げていくべきだ。

 今の高齢世代には活力にあふれ、自立心に富んだ人が多い。だが、培ってきた経験や技術を生かせる仕事は少ない。年齢で区切るのではなく、体力や能力に応じて働き続けることができる制度を整えることも重要だ。企業も環境整備に協力する社会的責任がある。

 超高齢社会を乗り切るには、財源問題を避けて通れない。厚労省の推計によると、社会保障給付費は、二〇二五年に百六十八兆円と倍増する。

 社会保障費を賄う財源は、主に保険料と税だ。保険料の負担額は年間五十八兆円に上る。国税の負担額より重い。保険料を上げるにも限度があろう。取りやすいところから取る、だけでは現役世代の理解は得られない。

 【消費税論議に着手せよ】

 残る財源は税だが、だれが考えても消費税しかない。特定世代に負担を集中させず、全世代が広く薄く負担する消費税こそ、社会保障の財源にふさわしい。

 増税を喜ぶ人はいない。だが、不人気な政策であっても、必要であれば敢然と実行するのが、真の政治である。

 年金改革をめぐる昨年末の政府・与党の議論は財源問題を先送りしたまま、数字のつじつま合わせに終始した。

 わずかに、与党の税制改正大綱で「二〇〇七年度をめどに消費税を含む抜本的税制改革を実現する」との一文が盛り込まれただけだ。

 欧州諸国に比べると、日本の消費税率はまだ低い。国民の多くは、社会保障の充実のためには増税もやむを得ない、と考えている。

 小泉首相は、消費税率の引き上げに向けた検討に着手すべきだ。安定した財源が確保できれば、列島に渦巻く「将来不安」も弱まるだろう。

 政治の強いリーダーシップが求められている。氷山が迫る中、船上でいす取りゲームに興じている余裕はない。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040102ig90.htm