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【女心をゲッツ!】
戦争の火ブタは、今年4月オープンの米系「グランドハイアット東京」で切って落とされた。
森ビルが17年の歳月を費やした巨大な再開発地域「六本木ヒルズ」。東京ドームの8倍という敷地の中核に位置する。
客室は天井高が290センチと、多くの国産ホテルより40センチも高い。洗面台の液晶テレビや英国製ブランド物のシャンプー類…。備品に至るまでデザイン性が高い。海外VIPはむろん、女心をくすぐる気配りがみえる。
最近の外資系ホテルは1泊4−5万円の価格帯が多い。この不況下、だれが利用するのか。
【需要は2極化】
山梨学院大商学部の土井久太郎教授は、JALホテルズや外資系のシェラトンなど20年以上のホテル実務経験を持つ。
まず、「利用者は外国VIPばかりではない。実は客層の半分は普通の客」とした上でホテル業界の現状を語る。
「東横インやルートインのように実用的な低価格路線と、非日常が味わえる超高級ホテルに2極化している。質素な生活で数千万円の家は買えないが、たまに5万円の部屋で非日常を味わいたい人が増えている」
「ハリウッド女優気分になって、『年に一度、泡の風呂を思いっきり楽しむ』という主婦やOLの常連客もいる」
【超高級外資がゾクゾク上陸】
今年だけで大型ホテルが5つも開業した。来年以降は「スーパー・ラグジュアリー」(超高級)にランク付けされる外資系ホテルの進出ラッシュが続く。
平成17年から20年までに、汐留地区に米ヒルトン系のコンラッド▽日本橋の三井本館再開発地区に香港系のマンダリンオリエンタル▽日比谷パークビル跡に香港系のザ・ペニンシュラ▽六本木の防衛庁跡に米系のザ・リッツ・カールトン…。
都内ホテルの総客室数は現在約4万室だが、今後4年間で1割強の5000室増えるという。
【客寄せパンダ】
外資が土地を買い漁(あさ)っているわけではない。
日本の場合、外資系ホテルのオーナーは、大半が国内企業。新宿のパークハイアット東京は東京ガス、恵比寿のウェスティンホテル東京はサッポロビールというように、運営委託契約を結んで日本進出する例が多い。
下落しているといっても、外資にとって都心の土地までは手を出せないが、賃借契約なら結べる水準になったのだ。
大手不動産の幹部が誘致のホンネを明かす。
「日本側のデベロッパーにとって、外資系ホテルのブランド価値やサービスの質の高さは、街づくりの客寄せパンダとしての魅力がある」
「公共性と高層を備えたホテルを再開発地区に併設することで、容積率緩和にも役立つ」
【外資共倒れ?】
外資系乱立で共倒れや淘汰(とうた)される心配はないのか。この幹部が続ける。
「デベロッパー側が三顧の礼で外資系に入居してもらい、撤退してもホテル側は最小限の損害ですむ契約が多い」
「むしろ、外資の大手チェーンが日本進出に成功して地盤を築き、次は国産の高級ホテルで体力の弱った物件を買収する。一気に外資、国産入り乱れての再編が始まる可能性もある」
【メジャーリーグ級】
迎え撃つ国産陣営。外資の何が脅威なのか。土井氏が指摘する。
「日本の高級ホテルはバブル期、企業交際費が膨らんだ恩恵で宴会収入が総収入の7割を占めるほど伸びたが、その分、客室整備が遅れた」
「外資系は客室に重点を置き、機能的で内装もセンスがいい。たたき上げの支配人は、茶碗(ちゃわん)1つ仕入れるにも、『この厚みなら2%は壊れる』と瞬時に分かるくらい経営感覚にたけている」
メジャーリーグ級のプロが続々、来襲するといったイメージか。
【『帝国の逆襲』に170億円】
日本勢も静観してはいない。老舗の帝国ホテルは今月から5年かけ、20年ぶりに客室全面改修を行う。
170億円を投じて客室数を約50室減らし、天井高の拡張やバスルームの充実など高級感を高める。ホテル事業統括部次長の山中左衛子さんがその意気込みを語る。
「欧州で最も注目される英国人デザイナー、ジュリアン・リード氏がアジアで初めて、当ホテルの内装を手がける」
「改修はまず16階のVIP向けフロアから順に着手する。外資系のように、全客室を広くするのではなく、海外賓客の随行者用など、多様な選択肢をご用意したい」
厳重警備が必要な外国の政府要人の受け入れから一般客まで、豊富な経験とノウハウで、外資系にはない守備範囲の広さをアピールする。
【ユニーク戦略のプリンス】
国内最大級の3680室を擁する『品川プリンスホテル』が昨年4月、新棟のエグゼクティブタワーをオープンし、話題を集めた。
10スクリーンの映画館や、ラスベガス級のショーが楽しめるクラブ、24時間営業のネットカフェ、ボウリング場などすべてホテル直営である。
エンターテインメントをそっくり飲みこんだ形がウケて、「品川の人の流れが変わった」(駅周辺業者)という。
同ホテル企画課の高橋直人氏は「今年10月の客室稼働率は、昨年の93.5%から、97.4%にまで伸びた」と、驚異的な実績を明かす。
プリンスグループでは、17年に芝公園に最高級グレードの「東京プリンスホテル パークタワー」の開業を控える。都心のホテルでは珍しい天然温泉も掘削中である。
プリンスホテルの石浜一洋取締役は、外資系の進出ラッシュも含め、業界活性化を歓迎する。
「ホテルは1日で売り切る必要のある生鮮食品と同じ。東京の街に多くのホテルが集積し、シンガポールなどアジアの他都市に負けない魅力ある街をつくりたい」
ZAKZAK 2003/12/22
http://www.zakzak.co.jp/society/top/t-2003_12/1t2003122217.html