2003年12月02日(火) 12時47分
春秋(日経新聞)
飽食のお犬様が闊(かっ)歩(ぽ)している。愛犬用クリスマスケーキは当たり前、犬の年越しそば、おせちまで飛び出した。一方で「働く犬」たちが人間の無理解に泣くとは、いかにも矛盾している。徳島の保養施設で盲導犬同伴の視覚障害者が、犬嫌いの客への配慮を理由に宿泊を断られた。
▼昨秋から盲導犬などの補助犬は公の施設や交通機関の自由な利用が法で保証されている。この10月には民間施設にも広がったが、現実はこのありさまだ。肢体不自由者を助ける介助犬や聴覚障害者に寄り添う聴導犬など補助犬でも認知度の低い犬の関係者は出はなをくじかれた思いだろう。
▼日本に1000頭近くいる盲導犬と違い、介助犬は目下38頭、聴導犬は15頭。しかも厳密に法に守られるのは、このうち厚生労働省お墨つきの育成団体などで学んだ各5頭と1頭にすぎない。指定要件にかなう機関が乏しく、他の犬は仮に実力はあっても“学歴”に難ありということらしい。
▼狭き門をくぐっても世間は甘くない。通常、介助犬を伴うのは車いす利用者だが、バリアフリーの不備で門前払いを食いがちだ。聴導犬がつき添う人は外見上、障害者に見えないことも多く、単なるペットとして追い出されかねない。ペット専用露天風呂まである一部ホテルとの、この落差。犬の目にどう映るか。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031202MS3M0200A02122003.html