2003年12月02日(火) 12時47分
社説2 これが社会的責任ある企業か(日経新聞)
法律を守るという「良き企業市民」としての最低限のモラルさえ置き忘れたような事件が起きた。東証1部上場の消費者金融最大手、武富士の武井保雄会長が、同社に批判的な記事を執筆したジャーナリストの電話を盗聴した電気通信事業法違反の疑いで警視庁に逮捕された。
調べに対し、武井会長は容疑を否認しているという。武富士側もこれまで「(同じ容疑で逮捕されている)元課長の個人的な行為で、武井会長も社員も一切関与していない」と関係を強く否定してきた。
事の真偽は今後の捜査にまつしかない。しかし盗聴工作の資金は会社が出していたと警視庁はみている。これまでの調べで、元課長は暴力団・総会屋対策や警察との折衝など「裏工作」を担当しワンマン経営者の武井会長と直結する立場におり、盗聴も武井会長が直接指示していた疑いが濃くなっている。事実なら個人的な犯行という弁解は通用しまい。
かつて消費者金融は「サラ金」と呼ばれ、深刻な社会問題を引き起こした。その反省から、各社とも法令順守体制を整え、社員教育を徹底するなど、社会から認められ評価される企業へ脱皮を図ってきた。昨年11月には業界大手3社が日本経団連への加入を認められた。
しかし、「すべての法律、国際ルールおよびその精神を遵守(じゅんしゅ)する」という経団連の企業行動憲章を無視するかのように、武富士では法令に違反するような問題行動が相次いでいる。
今年7月大阪労働局は、サービス残業を指示していた同社と役員2人を労働基準法違反で書類送検した。8月には関東財務局が、違法な取り立て行為をした支店を業務停止処分にした。犯歴照会に応じてくれた謝礼などとして多くの警視庁幹部に大量のビール券を贈っていた事実も判明している。暴力団との関係も指摘されている。社会的な責任を自覚した企業とは思えない行為である。
武富士は、2003年3月期に純利益が951億円に上った消費者金融の最大手である。だが、もうけのためなら法令無視も許されるという体質が染み付いているとしたら、社会から企業の存在意義が厳しく問われることになろう。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031202MS3M0200C02122003.html