2003年11月23日(日) 13時18分
春秋(日経新聞)
駅頭で、町中で、若者たちがそろいもそろって、必死で携帯電話をにらんでボタンを押し続けている様は、いささか気味が悪い。比較行動学の正高信男・京大霊長類研究所教授は、この現象を「コミュニケーションのサル化」だとみる。
▼3分前まで一緒にいた友達に送る携帯メールに、何か具体的なメッセージが込められているわけはない。ただひたすら、いつも誰かとつながっていたい。そんな不安が、飛び交うメールの背後にはある。10代の若者が番号を登録しているメル友の数は、40代のそれの10倍以上という。
▼サルの仲間では最大級の大きな群れをつくるニホンザル、彼らには「クー」と鳴き合う「クーコール」というコミュニケーションがある。これは意思の伝達でも、警報などの情報通信でもない。森の中で姿が見えない同士が存在を確認し合い、情緒的につながって安心を得るシステムだ。
▼正高さんは近著「ケータイを持ったサル」の中で、若者の携帯メールに、このクーコールを重ねている。最も原初的で最も私的な言語であるクーコールの方向へと若者が回帰している以上、意味を伝える社会的なことば、公の日本語が乱れるのは防ぎようがないと……。来年の干支(えと)はサル、年賀状の図柄に、携帯電話を持つサルが登場するのはまず間違いない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031123MS3M2300K23112003.html