2003年11月22日(土) 06時55分
宿泊拒否問題 旅館業法の対象外通知せず啓発不足も(熊本日日新聞)
元患者の宿泊受け入れ拒否で、総支配人と本社が告発されたアイレディース宮殿黒川温泉ホテル=南小国町 | | |
熊本地方法務局と県は二十一日、国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(菊池郡合志町)入所者の宿泊を拒否した阿蘇郡南小国町のホテルとその本社を旅館業法違反の疑いで告発した。一方で、国、県ともに事件発覚前まで、ハンセン病が旅館業法の宿泊拒否対象でないことを一度も通知していなかった。告発の陰で、自らの隔離政策の過ちの説明も含め、行政の認識不足が露呈している。
旅館業法は、第五条で宿泊者が「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」など以外は「宿泊を拒んではならない」と定めている。
厚生労働省は今回の事件を受けて十九日、この伝染性疾病にハンセン病は含まれないことを、各都道府県などに通知。県も同様の内容の指導文書を十八日、保健所などに送付した。しかし、国、県ともにこれまでこのような通知は一度も行っていなかった。
ハンセン病療養所入所者は既に治癒し、菌は保有していない。今回、告発されたホテルは、県から説明を受けた後も、宿泊を拒否しており、通知の遅れが直接、事件を招いたわけではない。
しかし、国はエイズ(後天性免疫不全症候群)については、一九九二(平成四)年に「啓発キャンペーンの一環」(厚労省疾病対策課)として今回と同様の通知を出している。ハンセン病に対する偏見や差別の解消に、「九六年の『らい予防法』廃止後、政府を挙げて取り組んでいる」とは言い難い。
厚労省設置の「ハンセン病問題検証会議」委員の藤野豊・富山国際大助教授は「行政が断罪された一昨年のハンセン病国賠訴訟熊本地裁判決までは、国は啓発どころか、隔離政策の過ちさえ否定しようとしていた。現在もその責任を隠ぺいしようとする動きは続いている」と指摘する。
今回の事件を受けて法務省は啓発チラシを作成。県内でも配布を始めた。しかし、その文面には、国の隔離政策の過ちや、それが司法で断罪され、政府も謝罪したことなどは一切記されていない。
二十一日、同省人権啓発課は本紙の取材に対して「病気への無理解から起きた事件なので、病気自体の記述を優先した」と説明した。
しかし全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)は十八日、同省に対して「国が過った政策を続けたことが、偏見、差別を助長したことを前提に啓発活動をしてほしい」と申し入れていた。
藤野助教授は「行政が自身の責任を自覚しないで、ホテル側に圧力をかけても、かえって一般市民から反発を受ける恐れもある」と話している。(報道部・泉潤)
http://kumanichi.com/news/local/main/200311/20031122000056.htm