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■インド洋『日米同盟』の名の下に
「あの補給活動はけしからんですよ。といっても私らの言うのは申し訳ないが、集団的自衛権がどうのというような高尚な話じゃないんです。あれはいくらなんでもボリすぎです」
こう話すのは都内の船舶相手の燃料販売会社の役員だ。別の石油販売業者を訪ね「実は船舶燃料のことで」と切り出すやいなや「あの自衛隊の給油の話、知っていますか。業界でもえげつないと評判ですわ」と取材目的を当てられた。
米軍のアフガニスタン侵攻直後の二〇〇一年十二月から、テロ対策特別措置法に基づき海上自衛隊の補給艦による米軍などへの給油活動が始まった。油代は日本持ちだ。先に閣議などで、今月から半年間の活動期間延長も決められた。
■『無料スタンド』すでに10ヵ国32万2000キロリットル貢献
防衛庁の資料によると、実績は今年九月二十八日までに米軍のほか、英軍、カナダ軍など十カ国の艦船を相手に計二百九十七回、量では三十二万二千キロリットルを供給した。米軍によると、油種はNATO(北大西洋条約機構)規格の「F76」と呼ばれる船舶用ディーゼル燃料(軽油)という。
補給艦が防衛庁と契約した日本の石油販売業者から「インド洋周辺」(海上幕僚監部広報)で受け取り、他国艦船に供給する。注目の油の金額はこれまでに約百二十一億円(防衛庁)とされ、単純計算では一リットル当たり三十七円余になる。
■海自「入札で契約 価格も適正」強調
販売業者との契約内容などについて、海上幕僚監部(海幕)広報は「業者の選定は指名競争入札で複数社と契約している。どこの会社かは、テロの攻撃対象になりかねないので申し上げられない。契約の詳細についても同様。価格は入札の結果で適正だった」。
業者がどこから油を仕入れているか、予定価格はどのくらいだったのかを尋ねても、同じ理由で「明らかにできない」と“保秘のカーテン”が下ろされた。
ただ、大手商社燃料部に価格をぶつけると「三十七円? 冗談でしょう。価格には岸壁でただ油を渡すFOB方式と、保険料や洋上給油のための運賃や手数料込みのCIF方式がある。当然、CIFの方が高いが、それでも二十円台後半がいいところ」と驚く。
業者の仕入れ先についても「インド洋でまとまった量を調達するならシンガポールか、アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラしかない」という。米軍筋は「(仕入れ先は)湾岸の方と聞いている」とし、フジャイラ説が濃厚だ。
さらにある同業者は「業者が供給に使っているのは五千トンクラスの内航型のタンカーと聞いています。海上自衛隊の補給艦には、免税措置を得るため、フジャイラ沖十二マイルの領海外すれすれのところで給油しているそうです」と明かした。
■試算では20%超す割高
では、受注業者は本当にボロ儲けをしているのだろうか。割り出した関東地方の受注会社に契約内容などの取材を申し入れたが、再三「担当者が不在」と事実上、取材を拒否された。
石油製品の取引は相場も絡み、複雑だ。月平均の価格か、買った時点か、それとも契約上、特別な設定があるのか。正確な額は当事者にしか分からない。
それでも目安として試算してみた。世界最大のエネルギー情報会社PLATTS社によるフジャイラでの月々の船舶用ディーゼル燃料の平均価格、同じく各月の円ドル相場、さらに相場は重量のトン単位で発表されるので、F76の比重などを防衛庁発表の各月の補給量と掛け合わせてみた。
資料の都合上、昨年十一月からことし九月までを計算すると、総額は二十六億九千万円に。タンカー運賃は業界筋の「人件費込みで月十万ドル程度」という相場で計算すると、約一億三千万円で計二十八億二千万円となる。これに対し防衛庁はこの間三十六億円を支払っており、計算上20%以上は高いことになる。
仮にシンガポールが仕入れ先でも、相場はシンガポールの方が安い。加えて複数の業界筋は、この試算より実際には安上がりな要素を次のように示唆する。
「PLATTS社の指標はバンカープライスという立ち寄った船が燃料を補給する時の価格だ。荷としてまとまった量を買うカーゴプライスはもっと安い」
「イラクのフセイン政権当時は価格破壊的なイラク産燃料が闇でフジャイラにも来ていた。一昨年、昨年はこれも買えた。油には色はないので分からない」
■価格よりもまず安定供給を優先
海幕広報は「価格よりもまずは安定供給第一」と話すが、それも程度問題だ。何より相場の高低はあったが「供給に不安があるような状況はこの二、三年ない」と商社筋は指摘する。
同業者の一人は試算結果を見ながら話す。
「私たちは通常の民間取引の場合、タンカー運賃など受け渡しのサービス込みで、相場より高く売ることはない。現地の石油業者から値引いて必要経費と手数料(利益)を出す。5%以内の数%で競っている。それを考えるとこの数字は常識外だ」と憤る。
■給油の売り込み 実は「日本から」
別の業者も「この不況下で防衛庁相手なら取りっぱぐれの心配もないし、うらやましい」と苦笑した。
米軍筋はさらにこう付け加えた。「すべてではないが実際の補給活動では、米国の補給艦に海自の補給艦が油を移す。一見むだな話だ。補給活動は表向き米国側から協力を呼びかけたようになっているが、実際は9・11事件から間もなく、防衛庁側からこの活動を売り込んできた」と政治的に「先に派遣ありき」だった経緯を明かした。
国際援助の名の下「受注企業に血税を流し込む仕組み」と指摘されるODA(政府開発援助)疑惑に似た構造が浮かび上がる。
防衛庁の調達に疑惑の目が向けられるのは、ゆえないことではない。「前歴」がある。一九九八年十二月に会計検査院が、米国に前払いしたが未納入の装備品が四百六十一億円に上ることを指摘。同年、NECなどによる不正請求事件も。
九九年には今回と同じ石油絡みで元売り十一社のジェット燃料談合事件が発覚し、七社九人が逮捕された。二〇〇〇年には総務庁の行政監察でコピー用紙など四品目の談合疑惑が指摘され、二〇〇一年四月にも公正取引委員会が艦船の検査や修理で造船八社に談合の疑いありと警告した。今年五月、日本飛行機による水増し請求事件も起きた。
業者の一人は「防衛庁は甘すぎる」とも漏らした。
「本来は防衛庁が外地で直接に油を買えば済む話だ。業者の言いなりになるのは外貨処理などができる専門スタッフがいないからだろう。海外派遣を口にするなら、まずはそうした能力を整えることが先決だ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031120/mng_____tokuho__000.shtml