2003年11月08日(土) 21時49分
携帯の番号「持ち運び」米で開始へ、競争激化で再編も(読売新聞)
契約する携帯電話の業者を変更しても、同じ電話番号をそのまま使うことができる「番号持ち運び(ポータビリティ)」制度が、24日からアメリカで始まる。
「電話番号を変えるのがイヤだから、仕方なく同じ業者と契約を続けている」という消費者はアメリカでも多く、携帯各社は契約者を割安料金で引き止めたり、サービスを向上させるのに懸命だ。(ニューヨーク 小山守生)
■囲い込み■
「契約を新たに結べば、新しい電話機を無料で提供します」「今契約すれば、航空会社のマイルを特別に加算できます」——。
契約の期限切れが迫っている携帯電話利用者のもとには最近、契約先の業者からこうした電話がかかってきている。番号持ち運び制度の開始を目前に控え、各社が契約者に特別な割引サービスを提示して契約を結び直し、制度開始後に他の業者に流れるのを食い止めようとしているのだ。
米携帯電話2位のシンギュラー・ワイヤレスは8月、フロリダ州に新しい電話相談・営業窓口(コールセンター)を開設した。営業担当者ら約400人が常駐し、顧客が別の業者に行かないように働きかけている。「通常100ドル程度の電話機を30ドル程度にしているほか、顧客によっては通話料を1か月無料にする場合もある」(クレイ・オーエン広報担当)という。
最大手ベライゾン・ワイヤレスもテネシー州にコールセンターを開設、顧客のつなぎ止めに力を入れている。4位のスプリントPCSも、「現在の料金プランよりも割安なプランを顧客に提示し、契約更新を図っている」(ダン・ウィリンスキー広報担当)という。
■コスト増■
番号持ち運び制度は、まず主要100都市で始まった後、来年5月24日までに残りの地域でも始まる。
もともと、米連邦通信委員会(FCC)が1996年に制度の導入を決定したが、設備の費用負担や競争激化に伴う収益性悪化を嫌う携帯電話業界が強く抵抗し、3回にわたり延期されてきた経緯がある。昨年8月には、業界が延期を求めて裁判所に提訴、連邦控訴裁判所が今年6月に訴えを却下し、ようやく今月の実施が決まった。
携帯電話業界は、「システムの初期投資が約10億ドル(約1100億円)、年間運営費が約5億ドル(約550億円)」と試算している導入費用については、原則としてすべての携帯電話利用者に均等に負担してもらうことにし、すでに毎月の通話料に数十セントから1ドル強を上乗せしている。
しかし、重荷になりそうなのが、制度導入で利用者の入れ替わりが激しくなることによる顧客獲得コストの増加だ。米調査会社ヤンキー・グループのアナリスト、ロジャー・エントナー氏は「顧客1人あたり200ドル程度」と試算する。
アメリカでは現在でも、年間あたり、携帯電話利用者の約33%にあたる4000万人が携帯電話会社を変更している。国土が広いため、携帯電話がつながりくいと不満を抱いている利用者も多く、「制度の開始によって、契約先を変更する利用者は年間1000万—1200万人増える」(エントナー氏)と予測されている。
■再編機運も■
こうした中、「制度導入後の携帯電話業界では、サービスの質が勝負の分かれ目になる」(調査会社マネジメント・ネットワーク・グループのリッチ・ネスポラ最高経営責任者)との見方が多い。
スプリントPCSは今年、21億ドル(約2300億円)を投じ、音質改善のための設備増強に着手した。音質に関して一部地域で評判が悪く、新制度が始まると「顧客が逃げるのでは」と懸念したためだ。
ベライゾン・ワイヤレスは制度導入にあわせ、大株主である地域電話会社ベライゾン・コミュニケーションズとの間で、固定電話とも番号を持ち運べるようにし、契約者増を狙う。
米携帯電話業界は、2000年ごろから合併・買収などの再編が進んだ結果、全国規模のネットワークを持つ大手6社が誕生し、激しい価格競争を展開している。大手6社で加入者の占有率(シェア)は約78%を占めるが、最大手ベライゾンでも約23%にとどまっており、NTTドコモが約57%のシェアを握る日本などと比べて「接戦状態」だ。
番号持ち運び制度が導入されて一段と競争が激しくなれば、敗れた業者が単独で生き残ることが難しくなるなどして、新たな再編機運が高まる可能性も取りざたされている。
◆携帯電話番号持ち運び(ポータビリティ)制度=イギリスで99年1月に始まるなど、欧州主要国や香港、シンガポール、オーストラリアなどで導入済み。日本でも、総務省が2005年に導入する方針でおり、具体的な内容を検討する研究会を10日に発足させる。(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031108-00000411-yom-bus_all