2003年11月05日(水) 12時34分
社説1 農業開国と自給率維持の両立を目指せ(日経新聞)
「農業鎖国はできない」という小泉純一郎首相の発言は舌足らずだったが、総選挙で埋もれがちな農業を巡る議論を誘発する効果はあった。
世界一の農産物純輸入国の日本が「農業鎖国」であるはずはない。熱量換算の食料自給率40%は、英国を除けば、ほぼ100%の自給率を達成している主要先進国の中にあって、際立って低い。
それでも、さらに市場開放を求める海外の圧力は強い。世界貿易機関(WTO)の農業交渉は9月のメキシコでの閣僚会議でいったん決裂したが、今後の交渉の進展次第では、コメの高関税維持は難しくなる。
5日に再開したメキシコとの自由貿易協定(FTA)交渉では、豚肉などの農産物の無税輸入枠設定を迫られている。韓国などとのFTA交渉が本格化すれば、別の農産物の関税撤廃・引き下げを迫られよう。
輸入依存でも食糧安全保障に支障はないと割り切れば別だが、そうはいかないとしたら、一層の「農業開国」を進めながら、自給率を維持するという離れ業を演じなければならない。各党はそろって自給率の向上を公約に掲げているが、その困難さを正面から受けとめているようには見えない。
農業の国際競争力を強めるしかないが、これまでは規模拡大によるコスト低減が構造改革の基本だった。しかし、農地の集約化を伴う水田農業の大規模化の歩みは遅い。米価の下落によって、兼業農家より主要な担い手の方が経営的には厳しいという状況も生まれている。
各党ともその対策として担い手に対する所得補償に動き出している。WTOが農産物の価格下支え政策撤廃を進めている現状では、有力な経営安定対策だが、その予算はどこからねん出するのか。民主党は農業土木予算の削減で対処するとしているが、自民党の場合は「農業開国」をいう割に具体性がない。
規模拡大以上に必要なのは、安全・安心な生産・流通体制を確立して、消費者との間に太いパイプを築くことだ。全国には元気な農業生産法人が少なくないが、いずれも有機農業に力を入れたり、消費者と顔の見える関係を築いたりしている。
新規就農者も年々増えているが、農地取得の条件緩和などにより、株式会社を含め誰もが参入しやすくすることも必要だ。消費者を味方につけるとともに、様々な主体が農業を支える仕組みをつくる。各党はその展望を示さなければならない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20031105MS3M0500G05112003.html