2003年11月03日(月) 13時16分
春秋(日経新聞)
呼び出し電話というものが、昔あった。といっても若い世代はぴんと来ないだろう。電話が一般家庭では高根の花だったころ、近所の電話を持つお宅を学校や職場の急ぎの連絡先にしてもらい、かかってくると家まで呼びに来てもらう。
▼不便ではあるが、近隣の人情が行き交うのどかな時代だった。世界の携帯電話の利用者が固定電話の回線数を上回り、今年末には13億人を突破する見込みという。急速に利用者を増やす中国や途上国への普及が今後も見込まれ、茶の間の片隅に置いた一台の電話が作る家族の物語は過去のものになりつつある。
▼主に個人間の情報伝達の手段として使われてきた電話は、その初期にマスメディアに似た使われ方をしたことがあった。19世紀の後半、ブダペストのテレフォン・ヒルモンド社がニュースや株式市況、オペラや音楽番組を会員向けに毎日流した。ラジオ放送というニューメディアの登場でそれは短命に終わった。
▼個人の通話からメールや映像のやりとりなど、携帯電話の機能は広がり続ける。活字離れが進む中で、この秋の出版界の関心は携帯を使った電子書籍による若い読者の開拓だという。活字と紙に代わる若者向けの「携帯小説」も結構読まれているらしい。小さな魔法の機械が読書の秋の風景も変えるのだろうか。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031103MS3M0300G03112003.html