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2003年10月30日(木) 22時24分

<オウム公判>初公判から7年半 刑事司法の課題浮き彫りに毎日新聞

 31日に東京地裁で結審するオウム真理教(アーレフに改称)の松本智津夫(麻原彰晃)被告(48)の裁判は、初公判から7年半、計250回余の公判回数を重ねた。長期にわたる裁判は、刑事司法の課題を浮き彫りにし、国民が刑事裁判に参加する裁判員制度導入に向けた司法制度改革の議論にも影響を与えている。【森本英彦、清水健二】

 「裁判が長過ぎる。でも、望んだことはまるっきり実現しなかった」。猛毒のVXで襲撃された永岡弘行さん(65)は30日の公判終了後、不満を口にした。「松本被告にひと言、『自分が間違っていた』と謝罪してほしい」と願ってきたが、失望に変わった。

 多くの被害者や遺族が「弁護団が裁判を引き延ばしている」と批判してきた。しかし渡辺脩弁護団長は「13もの重大事件があることを考えれば異例に早い審理だった。月3〜4回の開廷ペースにも協力した」と反論する。

 批判を浴びた理由の一つは、サリン被害者の調書や診断書など大半の証拠採用に同意せず、証人調べを求めたことだ。弁護人の一人は「もっと同意すべきだという意見もあったが、法律上許されるあらゆる手段で争うことになった」と振り返る。

 証人尋問に膨大な時間がかかるため、検察側はサリン負傷者のうち3920人を立証対象から外し、18人に絞り込む「訴因変更」を余儀なくされた。薬物密造4事件の起訴を取り下げる異例の措置もとった。検察側は「弁護側が争点を明らかにせずに詳細な反対尋問をしたため長期化した」と非難する。

 弁護団は松本被告と十分な接見ができず、有効な反論ができなかったため、詳細に尋問せざるを得ない事情もあった。証人計171人への尋問時間は検察側の約206時間に対し、弁護側は5倍の約1053時間に達した。

 裁判所側は当初、弁護団に「迅速審理のため、12人の弁護人が事件を分担し、複数の事件を同時並行的に審理できないか」と打診したが、「全体像がつかめない」と拒否され、十分な訴訟指揮ができなかった。

 「オウムのような事件では非常に長期間、裁判員が拘束される。例えば中小企業経営者に1年以上、毎日裁判所に来て下さい、というのはいかがなものか」。政府の司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会で昨年7月、委員の一人が懸念を表明した。

 今月28日に公表された検討会の座長試案では、「死刑または無期の懲役・禁固の事件」か「故意の犯罪行為で被害者を死亡させた事件」が裁判員制度の対象とされた。組織犯罪やテロ事件は除外すべきだという議論もあるが、大規模事件の審理に裁判員が加わることが現実味を帯びている。

 裁判員として審理・評決に加わる一般市民の負担を考えれば「数カ月も務めるのは無理」との声は強い。「1審判決2年以内」を目標に掲げる裁判迅速化法が施行され、裁判所や当事者は迅速化に努める責務も課された。審理期間をいかに短縮するかが課題だ。

 裁判員制度では審理迅速化のため、「準備手続き」が義務化され、検察、弁護側双方は初公判前に争点や証拠の整理を済ませることになる。さらに「起訴事実の絞り込み」や「弁論の分離」も議論されている。

 陪審制度を採用する米国では、死者168人、負傷者500人以上を出した95年の連邦政府ビル爆破事件で、起訴事実を8人の殺害に絞り、約2年で死刑の評決が出た。松本被告の公判では、訴因変更と起訴取り下げによって「審理を17年短縮できた」と検察側は試算するが、「不満を持つ被害者も少なくない」(検察幹部)という。犯罪の一部しか審理しないことには、検討会でも「被害者切り捨てになる」「真実の解明という刑事裁判の原則に反する」との意見も出ている。

 一方、弁論の分離は事件ごとに別々の裁判を同時並行で行い、審理の短縮を図る方法。現行制度でも可能だが、例えば二つの殺人事件を個別に審理し、仮に懲役15年と懲役10年の判決がそれぞれ出た場合、合わせて無期懲役や死刑に引き上げる規定が刑法などにないことなどがネックになっている。検討会の複数の委員は「法改正でそうした規定を新設すれば、裁判員は1事件の判断だけで済む」と指摘する。座長試案は弁論の分離について「さらに検討する」と結論を先送りにした。(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031031-00000090-mai-soci