2003年10月23日(木) 00時00分
閉塞社会⑦ カメラの監視に守られてメーンストリートのバス停付近も「監視」の対象になる=金沢市片町1丁目で(朝日新聞・)
治安悪化 深まる依存 「自分の安全」で見る側に 金沢市内の住宅地にある5階建てのマンション。玄関や駐車場で、カメラがじっと見張っている。24時間、記録を続け、一定の期間保存する。
住人のパート女性(51)は「小さな子どもの安全を考えたら、あった方がいいと思うのが当然」。会社員男性(59)は「防犯上、あるべきだ。嫌だというのは後ろめたい人だろう」という。
このマンションを経営するアパグループは、約3年前から新築物件に防犯カメラを付けている。それ以前のマンションでも、入居者の要望に応じてカメラを設けた。県内49棟のうち21棟に導入済みという。防犯カメラは、マンションの「売り」の一つになっている。販売中の建物のホームページでもPRしている。
「駐車場の車を盗んだり、パンクさせたりといった犯罪が現実に増えた。顧客のニーズに応えている」。同グループの元谷外志雄代表は話す。
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同様のシステムを、市中心部の竪町商店街も02年に導入した。アーケードの高みから、約50台のカメラが約500メートルの商店街を隅々まで見渡す。12月中には竪町を含む片町全域で、県警と市が新たに45台の運用を始める。この地区の防犯カメラは計100台近くになる。
強引な客引き、酔客のケンカ、落書き。「安心して商売したいし、安心して眠りたいんです」と片町商店街振興組合の石田正俊理事長は訴える。プライバシーの議論があるなか、犯罪抑止のためにカメラの設置を県警と市に要望したのは、商店街側だった。
「防犯カメラが決め手」。今夏の長崎市の園児殺害事件で中学1年の少年が補導されると、新聞に大見出しが躍った。園児の手を引く少年の姿が繁華街のカメラに映っていた。石田理事長は「例外的な事件だが、カメラに対する理解を得やすくなった」と話す。
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県警のまとめでは、県内の刑法犯は97年に8763件だったが、02年には1万6666件に倍増。逆に、97年に6割強だった検挙率は今年(9月末まで)約35%まで落ち込んでいる。
今回の総選挙で各党はマニフェストに「治安回復」を掲げた。だが、警察官の増員を言うばかりで、具体性を欠く。見限るかのように、カメラに防犯を頼る動きは広がっている。
日本防犯設備協会によると、映像監視装置の全国売り上げは、年の約900億円が02年は約1500億円に増えた。コンビニ、銀行、大型商業施設だけでなく、街の商店街や住宅へと需要が拡大。大阪・池田小事件以来、学校での設置も広がった。県内でも私立幼稚園が導入するなど、全国の傾向が及んできた。
不安がカメラへの依存を深めている。
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ジョージ・オーウエルの小説「1984年」(49年刊)では、独裁者が全国民をカメラで監視する管理社会が描かれていた。確かにいま警察は、全国の道路に車のナンバーを読み取る「Nシステム」を設置し、東京の新宿・歌舞伎町など繁華街にもカメラを置き、その世界に向かう兆候もうかがわれる。
ただ現代日本の状況が大きく違うのは、それを上回る勢いで、民間の防犯カメラが増えていることだ。「他人に見られると気持ち悪いが、自分の安全のためには見る側に回らねば」。治安の悪化がそんな心理を生んでいる。
夜の片町で聞いてみた。帰宅途中の会社員女性(32)は「カメラは犯罪防止に効果的だと思う。でも、みんながあちこちでつけ始めたら、お互いに見張り合っているような気分にならないかな」。
(神田大介)
(10/23)
http://mytown.asahi.com/ishikawa/news01.asp?kiji=5892
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