2003年10月19日(日) 12時31分
社説1 治安の「三悪」にどう立ち向かうか(日経新聞)
各政党が発表した政権公約に、これまで選挙で論じられることがまれだった問題が登場した。犯罪対策である。自民党は「5年以内に、治安を回復します」と約束し、民主党は「安全な地域社会を取り戻します」と訴える。
昨年の刑法犯の認知件数は285万件と戦後最悪を記録し、増勢は衰えない。検挙率は20%と5年前の半分の水準に落ち込んでいる。社会安全研究財団の調査では、犯罪に不安を感じる人はこの5年間に26%から41%へ跳ね上がった。
犯罪対策が政権公約に一斉に登場したのは、安全な社会を求める国民の要求が強いからである。国民の生命・身体・財産を守ることは、国の基本的な責務といえる。警察任せだった犯罪対策に政党が本気で取り組み始めたことは評価できる。
政権公約の内容を見ても、各党間で対立点より一致点が多い。犯罪のない社会を目指すことは、与野党を超えた共通の目標である。違いを強調するより一致できる点から具体化し実施することが望まれる。
いま日本の治安に脅威を与えているのは、三つの犯罪である。凶悪化する少年犯罪、急増する来日外国人犯罪、見えない形で社会の各層に浸透する暴力団犯罪のいわゆる「治安三悪」である。これにどう立ち向かうか、が治安回復のカギを握る。
多くの政党が掲げるのが、警察官の増員である。自民党は警察官の思いきった増員で「空き交番ゼロ」を目指し、民主党も4年間で地方警察官の3万人以上の増員を提案している。治安の良さを反映して日本の警察官1人が受け持つ国民の数は、先進国でもトップクラスだ。ある程度の増員はやむを得まい。
だが、単純に増やすのでは知恵がなさ過ぎる。公明党が提唱するように、OBの活用や交通取り締まりの民営化など工夫が必要だ。東京都が職員を警視庁や入管当局に派遣することを検討している。役所の枠を超えた柔軟な人のやり繰りを考えるときだ。検察庁、刑務所、入国管理局、海上保安庁など関係機関のバランスの取れた増員も必要になろう。
外国人犯罪対策として自民党と保守新党が不法滞在者の5年間半減を主張している。不法滞在者が外国人犯罪の予備軍となっているのは間違いない。在留管理の厳正化は当然だが、外国人犯罪急増の背景には、社会や制度のひずみがある。外国人がドロップアウトしない社会や制度の支えも検討すべきである。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031019MS3M1900I19102003.html