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■今も80分開かずの踏切
「踏切が開いた途端、車も自転車も人も猛ダッシュ。あまりの勢いに、いつ誰か倒れてひかれる事故が起きてもおかしくない感じ」
東京都小金井市の中央線東小金井駅西にある「東町踏切」を渡ろうとしていた地元の都立高校の女子生徒(18)は、突然出現した通学の障害に、ほとほと困った様子だ。
先月二十七、二十八日に実施された中央線高架工事で、信号故障などのトラブルが発生した。十八万人の足に影響が出たが、それだけでは終わらなかった。仮線路が付け加えられたことで、同踏切は幅が約十メートルから約二十八メートルに広がり、午前七時から同九時までのラッシュ時間帯に一時間近く「開かずの踏切」になってしまった。
同駅東へ五百メートルの「梶野新田踏切」は歩行者専用。工事を実施した会社が調べたこの踏切の遮断時間は、二日朝は八十一分連続して遮断状態となった。
同市内の東京農工大学三年西坂聡さん(20)は「先週の朝も、来てみるとまるで長時間せき止められたように人並みがぎっしり。岡山県から上京してきたが、つくづく東京で暮らすのは大変だと痛感した」と振り返る。
■「遅延証明を配ってほしい」
同高校の別の女子生徒(17)は「先日も塾の模試に遅れそうになり、親に車で送ってもらった。塾の教師も『国鉄の親方日の丸体質から脱皮すると思ったら、民間になってよけいひどくなった』と怒っていた」と話す。加えて「電車で遅れると遅延証明をもらえるが、踏切で遅れてもない。同じように配るくらいのことをJRにしてほしい」と訴えていた。
梶野新田踏切に終日立つ警備員は「朝は上りで二分置き、下りで三分置きに電車は通過する。上りの場合、東小金井駅に到着した時点から遮断されるため、どうしても待ち時間が長くなる。全社的なシステムなので動かしがたい。お客さんには、なるだけ早く来て渡ってほしいというしかない」と疲れ顔だ。
高架工事に伴う同様な大規模作業は、今後七回二〇一〇年度まで予定される。今後のトラブルが懸念されたが、六日には京浜東北線で夜間の保線作業で使用したショベルカーの部品が、線路に放置され電車が衝突する事故も起きた。
三日には高架工事を実施した武蔵小金井駅構内で、架線カバーから煙が出る事故があった。一日にも同駅でポイント故障があった。七月には八高線で車両故障が起き、乗客が閉じ込められた。基本的なミスが原因の事故が続発し、JRの公共交通機関としての信頼は大きく揺らいでいる。
中央線はトラブルが多い路線といわれる。一九九九年には車両故障などが頻発。JR側の一方的な責任とは言えないが、自殺や線路内立ち入り、酔客のホームからの転落なども相次いで、この年問題化した。車両の更新や設備の修理、自殺対策に警備員の駅への配置など、対策を実施しているが、そのさなかに今回のような基本的なミスが原因でまた事故が起きた。
トラブル多発の背景に、効率化による構造的な問題を指摘するのは亜細亜大学経済学部の佐藤信之講師(交通政策)だ。「約二十年前の常磐線や総武線の改良工事では小まめに工事区間を区切り、運休も日曜早朝などの短時間で済ませていたが、JR東日本はその後、コスト低減のために大規模区間で(一気に)工事をする傾向にある」と言う。
「工事コスト削減を重視するあまり、利用者への配慮不足を生んでいる。自前の工事を減らし、子会社、さらにその下請けへの委託を増している。こうした構造変化が責任の所在を分かりにくくしている」と分析、加えて「復旧ダイヤ作りは機械任せにできず、職人芸だが、機械化がこうした伝統の継承を薄めている」と話す。
JR東日本労組(二千百人)も「昨年十月ごろから設備保全分野でも子会社への委託が増えている。組合として、子会社増が相互の責任や連携をあいまいにしているのでは、と会社に検証を求めている」という。
先月の中央線高架工事も、六日の京浜東北線事故の原因となった夜間保線作業も子会社が担当している。さらに「最近は夜間の作業員確保もままならなくなった」(JR関係者)との指摘もあり、コスト削減のひずみが現場を襲っているようだ。
中央線は、その歴史をさかのぼって問題を指摘する声もある。JRのOBで金沢工業大学の永瀬和彦教授(鉄道システム工学)は「工事には計画、工事の実施、点検確認の三段階がある。特に今回のような改良工事ではこれに加え、現状把握が極めて重要だ。それが十分でなかったのでは。中央線の場合、一八八九年の旧甲武鉄道の開通以来改良を重ねてきたが、その度に何十ページにも及ぶ配線図などをきちんと書き換える地味な作業が完ぺきになされてきたか疑問がある。そこに今回事故のルーツもあったのでは」と見る。
■「間違った図面 事故の原因」
こうした指摘に対し、工事を担当した日本電設工業広報担当者も「今回の事故のうち、ポイント関係の五件中、三件の原因は元の図面の間違いにあり、残り二件も古い間違った図面に引きずられた」と明かす。
問題解決に永瀬教授は「誤解を恐れずに言えば、大規模工事にはミスがつきもの。だから、工事の発注元はミスの発生を考慮して代用手信号、踏切に人を立たせるといった対応、さらに余裕のある代替輸送などを準備すべき。だが、こうした要望は工事担当者からは言いにくい。先の図面などの整備の重要さと併せ、こうした準備は鉄道会社首脳陣の認識にかかっている」とJRトップの判断次第だと強調する。
■『首脳陣の認識甘い』
事故後の処理もトップの認識が左右するとして工学院大学工学部の曽根悟教授(交通システム工学)はこう指摘する。「鉄道は巨大システムでトラブルの発生自体は避けられない。問題はトラブル発生後の処理にある。都市部では鉄道が輸送の柱であり、利用を増やすには信頼性を高める努力が必要だ。問題発生時には列車を止める時間と範囲をできる限り短く狭くするが、京浜東北線の事故でも東海道線や湘南新宿ラインを止めた点は問題。JR東日本は他社と比較し、その認識が甘いのではないか」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031007/mng_____tokuho__000.shtml