2003年10月02日(木) 12時52分
春秋(日経新聞)
秋の日を浴びて、オレンジ色の軽やかなじゅうたんが、緑の芝生にふわりと浮かんでいる。東京・文京区の小石川植物園でみたヒガンバナの群生は、死人花、幽霊花、捨子花などという不吉な別名の持つ暗いイメージとは違って、明るくつややかだった。
▼曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも呼ばれるヒガンバナは、田畑のあぜ、土手、墓地など、暮らしのすぐそばにある。地下の鱗茎はでんぷんが多く、かつては水にさらしてアルカロイドの毒を洗い流し、穀類の代用食にした。日本の自生種ではなく、中国からの渡来らしいが、その時期やルートは謎めいている。
▼列島の秋に彩りを加えたヒガンバナの渡来とは異なり、食の安全を脅かす牛海綿状脳症(BSE)の日本上陸は、その経緯が謎のままであってはならない。感染源と感染ルートを突き止めない限り、今後の対策も心もとない。しかし、農水省の「BSEに関する技術検討会」がこのほどまとめた最終報告では、発生原因を特定していない。
▼英国産の牛とイタリア産の肉骨粉に感染源の可能性ありとしたが、7頭の感染牛について、それぞれがどんな経路で感染したかは、解明されていない。BSE上陸の原因を謎のまま放置すれば、「BSE問題検討委員会」が昨年厳しく指弾した、農水省の重大な失政も闇にまぎれてしまう。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031002MS3M0200G02102003.html