悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。
また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。
■苦境
年金改革の最大の課題は、少子高齢化をどう乗り切るか。二〇〇〇年は高齢者一人の年金を現役世代三・六人の保険料で支えていたが、今のままなら五〇年は一・四人で支えなければならない。
この苦境を乗り切るため、厚労相は、厚生年金で保険料率を現行の13・58%(労使折半)から20%を上限に引き上げる一方、給付の引き下げは年収の59%という現行水準を、50−50%台半ばに抑えることを提案した。
これについて、厚労省幹部は「負担と給付の数字を示した意義は大きい。年金がもらえるか、との若年層の疑問に答えるものだ」と評価するが、そもそも、20%の保険料が妥当か、との指摘がある。
「諸外国の例や、給付を極端に下げないためのレベル」という厚労相側の説明に対し、高山憲之・一橋大教授(経済学)は「財源手当てもなく高額な給付を約束してきた現行制度のツケを保険料に回すもの」と、手厳しく批判。給付と負担のバランスを見直すだけの改革を脱し、現在の高所得高齢者らに対する負担の分担など「首相、与野党の政治家挙げて」の抜本的な改革を訴えている。
■積立金取り崩しに賛否
「積立金を使うことで、将来も現役世代の年収の55%前後の年金は確保したい」。坂口厚労相は五日の記者会見で、あらためて年金積立金を取り崩す方針を強調した。
坂口案は、現在約百四十兆円、年金給付額の五年分に相当する巨額の積立金を徐々に取り崩して給付に充て、二一〇〇年ごろの段階で給付一年分の約二十兆円を残すというもの。米国で採用されている制度で「有限均衡方式」と呼ばれる。
この提案は、厚労省事務方にとっては“寝耳に水”だった。同省は、給付費の四年分を超える積立金の保有を原則としてきた。積立金の運用収益を組み入れることで「将来世代の過大な負担を避ける」との論理からだ。
自民党のある厚労族議員は、厚労相が突然、取り崩しを主張した背景について、「積立金の市場運用で六兆円もの累積損失を出したことを国会で追及され、カッカして飛びついた」と説明する。
社会保障審議会年金部会でも「早期に積立金を取り崩すべきだ」との意見がある一方、「将来の保険料負担を考えると一定の積立金は必要」と、現行維持を主張する委員もいる。積立金の在り方は、与野党も含めた議論が進む中で、最大の焦点になるのは間違いない。
■国庫負担上げ 財源明示せず
年金財政を安定させるもうひとつの手段が、基礎年金の国庫負担割合の引き上げだ。現行の三分の一を〇四年までに二分の一に引き上げることは二〇〇〇年の前回年金改革の際、国民年金法の付則に盛り込まれており、関係者の間に積立金取り崩しのような異論は少ない。今回の厚労相試案も同じく必要性を訴えた。
しかし、試案は「引き上げに道筋を付ける」としただけで、ほぼ消費税1%分に例えられる年間約二兆八千億円の財源確保には触れなかった。財源問題はここ数年間、政府内外で論議が繰り広げられてきたものの方向性が出ず、今回、厚労相ならではの「政治的判断」に期待が集まっていた。
これについて、厚労相は「財源は税制改革の中で議論すること。早急に税制改革が行われることを期待する」と述べている。やはり、小泉純一郎首相が在任中の消費税率引き上げを否定していることが大きいようだ。
厚労相は代案として「課税最低限見直しや定率減税廃止など、消費税以外でも必要な財源を生み出すのは可能」と指摘。厚労省や年金部会では、高齢者に対する年金課税強化案も浮上している。
ただ、消費税以外の増税策も衆院解散・総選挙を前に、見通しは立たない。厚労省幹部は「何年度からどうやって財源を確保するか、法案に書かなければ今回の制度改正をやる意味はない」と、悲壮感を漂わせている。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20030906/mng_____kakushin000.shtml