2003年08月26日(火) 00時00分
首長ら利便性を強調 住基ネット本格稼働(朝日新聞・)
安全性をめぐる議論は決着しないまま、住基ネットの本格稼働が25日、県内120市町村でも始まり、各市町村の窓口で住基カードの申請を受け付けた。カード印刷機を備えた松本市や佐久市などでは、申請から5分足らずでカードが住民に交付された。県によると、午前中に一部でアクセスに時間がかかる問題が生じたが、目立ったトラブルはなかったという。
長野、松本の両市役所では午前10時ごろ、全国サーバーへの接続が一時的にできなくなった。松本市では約1時間半ほど、住民票の広域交付ができなかった。県市町村課によると、午前10時前に地方自治情報センターから、全国サーバーが混雑している旨と対処法の連絡があり、各市町村にメールで知らせた。県によると、少なくとも200件のカード申請があったという。
下水内郡栄村と下伊那郡泰阜村は、県審議会の「離脱」提言などの影響もあり、住基カードの手数料条例制定が間に合わなかった。栄村では、住基カードの申請に訪れた男性に事情を説明し、約2週間後のカード引き渡し時に、カード代500円を支払ってもらうように依頼し、男性も了解した。泰阜村では申請はなかった。
県内では、上伊那広域連合を構成する10市町村でのみ、住基カードを使った独自サービスが始まった。伊那市役所では、小坂樫男市長が住基カードを使って、県内初設置の自動交付機から住民票の写しを取り出した。「交付機は休日でも動くから、市民サービスは向上する。住基カードに納税証明のデータや金融機関の決済など民間データも上乗せできたら、さらに利便性は高くなる」と小坂市長。
長野市では、29件の住基カードの申請があった。午前8時半には鷲沢正一市長が第1号の申請手続きをし、届け出用紙に住所や氏名などを記入、顔写真をはって市民課へ提出した。個人情報漏洩(ろうえい)の危険性について鷲沢市長は「世の中に100%完全なものなんてない」。29件のうち、身分証明書にもなる顔写真付きカードの申請は24件、写真無しは5件だった。
松本市役所では、申請から5分ほどでカードが交付された。一番乗りの無職、今井義則さん(76)は「カードをなくさないか不安だが、住基ネットは安全だと思う」。有賀正市長も申請に訪れ、「全国並みにカードを支給できてほっとしている。侵入実験はいたずらに住民の不安を募らせることで、必要ない。住基ネットは国に任せて、県は日常生活に集中して欲しい」と注文した。
転出届けを出しに来た会社員の男性は、カードの申請は見送った。「安全性の議論は分かれているし、1枚のカードで情報が管理される不安も感じる」と話した。
県市長会長の三浦大助・佐久市長は同市役所で「IT(情報技術)社会は時代の要請。利便性とわずかな危険性なら、利便性を享受すべきだと思う」と述べた。
合併協議の進む岡谷、諏訪、茅野3市は、住基ネットの関連機器を同一メーカーから同じ仕様で購入した。諏訪市の山田勝文市長は「市民生活の向上のために電子自治体を目指している。コンピューターを導入する以上、セキュリティーを守る側と攻める側はいたちごっこです」と話した。
一方、住基ネットに疑問を投げかけている諏訪郡下諏訪町の高橋文利町長はこの日は夏季休暇。同町は、県の要請があれば侵入実験を受け入れる姿勢だが、住民課によると、協力要請はまだないという。
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県は、インターネットと住基ネットが接続している23町村に分離を要請していたが、25日現在、フロッピーディスクなどの媒体交換方式を採らずに接続したままにしているのは6自治体。その一つ、更級郡大岡村は「安全対策は万全。今後については県の侵入実験や総務省の見解などを見ながら考える」としている。
当面の焦点は、県が実施を目指す侵入実験だ。片山総務相も24日の民放テレビ番組で「法律や守秘義務の違反にならないように」と条件付きで容認する考えを示した。
情報漏洩(ろうえい)に十分配慮して行い、結果をどう正確に公表するか。県側には、架空の人物か、了解を得た首長のデータを盗む、システム自体を「乗っ取る」−−などの案が出ているが、全面公開に否定的な声もあるという。第三者の立ち会いという形での公開にとどめる場合は、信頼性をどう担保するかが難しそうだ。
田中知事は、総務省の外郭団体が一元的に管理運用するシステムに疑義を唱え、「独自システムを検討する」と表明。県の審議会は構想案を提出したが、費用対効果の検討を踏まえた上で市町村の賛同が不可欠となる。審議会内部にも「市町村に更に負荷をかけるのは避けるべきだ」「コスト削減額など、説明責任を果たすべきだ」とする意見も出ており、さらなる議論が必要だ。
(冨岡史穂)
(8/26)
http://mytown.asahi.com/nagano/news02.asp?kiji=3519
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