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住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)に対し、田中康夫・長野県知事が15日に打ち出した事実上の離脱方針の背景には、国による国民の個人情報の管理のあり方への懸念がある。長野県は具体的な対策として、情報を一元管理する総務省の外郭団体「地方自治情報センター」への接続を断ち切ることを検討している。田中知事の狙いや今後の見通しを探った。【西田進一郎、臺宏士】
15日の会見で田中知事は、都道府県が住基ネットの個人情報をすべて同センターに提供し、国への情報提供などの事務を全面的に委託している現状を見直すことを表明し、「広い意味での離脱」と語った。
この「広い意味での離脱」の表現について、長野県幹部は毎日新聞の取材に「既存の枠組みから離脱するということだ」と明言した。別の幹部も「国中心ではなく、県の主体性を確立する方向に転換するという意味だ」と話し、個人情報保護のために独自の情報管理・運用を目指すとの意向を示した。
地方自治情報センターは住基ネットの頂点に位置し、都道府県を通じて全国民の個人情報を集積している。都道府県は市区町村から送られてくる個人情報をセンターに常時提供し、国の行政機関などが旅券取得申請など264の事務を行う際に、センターは求めに応じて個人情報を提供している。
長野県がセンターとの接続を切断すれば、これが住基ネットからの事実上の離脱になる。田中知事は、センターでの情報の一元管理はプライバシー侵害や情報漏えいのリスクが高く、県で県内市町村の情報を管理する形にすればリスクの分散になると判断したとみられる。県はセンターへ情報を流さないかわりに、国の行政機関から個別に要請があれば、個人情報はその都度提供し、県民サービスの低下につながらないようにする意向のようだ。
もともと各都道府県は住基ネットの事務の一部を「指定情報処理機関(同センター)に委任できる」と規定されているだけで、センターへの委任は法的義務ではない。しかし、実態は全都道府県が交付金、委託金などをセンターに支払って委任している。
長野県本人確認情報保護審議会委員の清水勉弁護士は「各都道府県が原則に戻って委任を解約して独自にやっていくという方法は、そもそも法が原則形態として認めている」と話し、長野県がセンターとの接続を断つことは法的に認められているとの認識を示した。
田中知事の狙いの一つは、各市町村にも住基ネットからの離脱を促すことにあるとみられる。
長野県関係者によると、一部の自治体を対象に今月中にも県が行う予定の侵入実験がそのカギを握っているという。この実験は、住基ネットとインターネットが庁内LAN(構内情報通信網)を通じて接続している自治体について、不正アクセスなどを招く危険性の有無を検証するもので、県は市町村のセキュリティー水準はなお不十分なレベルにあると予測している。
住基ネットは市町村の固有の事務のため、県が関与して離脱を強制するのは法解釈上、困難だ。このため県は、侵入実験で「明白な危険性」が証明されれば、それを市町村に示し、自主的な判断による離脱を誘いたい戦略とみられている。
住基ネットの情報漏えい対策について、田中知事はこの日の会見で「市町村は万全の対応が取れているとは言い難い」と懸念を示した。会見後、毎日新聞の取材に知事は「市町村が(離脱するかどうかの)判断を迫られることになるだろう」と語った。
県関係者は「東京都世田谷区は住基ネットがウイルスに感染していなくても、感染の恐れの段階で合法的に運用を停止した。侵入実験には同じ効果がある」と話す。
田中知事の会見を受け、長野県本人確認情報保護審議会(会長、不破泰・信州大大学院教授)の委員は15日、緊急会見を行い、同県の方針について高く評価した。
会見には委員6人のうち、ジャーナリストの桜井よしこ氏ら4人が出席。桜井氏は「私たちが提言した『一時的な離脱』という方向に沿った内容だと思います」と感想を述べた。不破会長は「現在の住基ネットは問題があり、市町村の情報を守れない。知事の決断を歓迎したい」と評価した。【川上晃弘】
総務省の井上源三・市町村課長は15日、記者会見し、「仮に住基ネットに問題があり、地方分権に反するというのが長野県の意見だとしたら、そういうことは全くない。長野県が独自の方式を取れば、住基システムの改造が必要だ」などと反論した。さらに「住基ネットには問題はない。他の市町村も誤解のないように願う」と述べ、他の自治体へ影響が及ぶことへ懸念を示した。
[毎日新聞8月16日] ( 2003-08-16-00:14 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20030816k0000m040083003c.html