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2003年07月04日(金) 00時00分

尼崎公害訴訟 もう『待った』はなしだ 東京新聞

 尼崎大気汚染訴訟の和解条項履行をめぐり、改善実行の遅れを指摘した公害等調整委員会のあっせん案を国側が受け入れた。改善への道のりの険しさは、車依存社会全体への教訓をはらんでいる。

 画期的な判決だった。

 西淀川(大阪)、川崎と続いた工場と車の複合大気汚染訴訟の流れの中、尼崎訴訟で神戸地裁は二〇〇〇年一月、自動車排ガスに含まれる浮遊粒子状物質(SPM)の排出差し止めを初めて認めた。その判断は、同年十一月の名古屋南部訴訟に踏襲された。

 昨年の東京大気汚染訴訟では、差し止め請求は退けられた。が、五たび続いた「原告勝訴」を見る限り、排ガス公害に関する国の責任はあまりにも明白だ。

 尼崎訴訟は、判決から十一カ月で和解した。

 自動車排ガスの低減や大型車通行規制の具体化などを条件に、差し止めや損害賠償など、一審で勝ち得た成果を放棄した。

 「私たちと同じような被害者が、もう二度と出ないよう…」。目先の賠償金より未来の環境改善を優先させた原告団長の言葉は重い。

 それから二年半、和解条項はほとんど履行されていない。その責任はなお重い。公調委は「汚染実態は依然として改善されていない」と国の怠慢を厳しく指摘した。もう「待った」は許されない。縦割り行政の壁を乗り越え、改善への歩みを速めてほしい。そもそも「約束を守る」のは、ごく当然のルールである。

 一連の公害訴訟が問いかけるのは、道路交通行政のあり方だけではないはずだ。車自体を「悪役」とは決めがたい。悪いのは、過度の依存と集中だ。根本的な原因は、暮らしの中にも潜んでいる。

 自動車保有台数は七千七百万台と、二十年で二倍に増えた。大型化も進んでいる。値段の安さがディーゼル志向を助長する。

 東京都の食糧自給率は、わずか1%である。千二百万都民が生きていくには、遠隔地から食料を大型トラックで運び込むしか道はない。

 メーカーや自治体は、車を共同所有するカーシェアリングや市街地に車を乗り入れないパーク・アンド・ライドの社会実験を進めている。路面電車復活の動きも目立つ。最後には、社会構造やライフスタイルを大改革する必要性が見えている。

 都市生活者は、被害者にも加害者にもなる存在だ。「当事者としてこの問題をとらえてほしい」。尼崎訴訟の原告団は、こんな言葉も残している。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20030704/col_____sha_____003.shtml