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2003年06月16日(月) 02時15分
金融の闇 抜け出せず 審査落ち狙う裏の顔も 中小貸金業者(西日本新聞)「十万、お願いします。お金が入る予定もあります」。テーブル越しに向き合った二十代の主婦は、ひざの上のバッグを握りしめていた。北九州市の雑居ビルにある小さな金融会社。紺のスーツ姿の男性社員(41)は、パソコンのキーをたたき、主婦の借り入れ状況を照会した。数社から約二百万円。長期延滞分もあった。「お客さまの債務状況では、融資できかねます」。「どうしてもだめですか」。上目遣いに懇願する主婦。「無理ですね」。パソコン画面で見た主婦の信用情報が浮かんだ。「この姉ちゃん、引っかかるな」 中小の貸金業者を訪れる顧客の大半は、大手消費者金融で枠いっぱいに借りた客。「この程度なら前までは貸せたけど。今は簡単に自己破産されるから、審査で絞るように指示されててね」 翌日、アルバイトを使い、主婦の自宅に自分の携帯電話番号入りのチラシを入れた。社員には裏の顔がある。会社に隠し、審査落ちの客を狙って始めた高利のヤミ金融。「あの状態で貸せるほど、まともな中小業者は余裕ない。後はヤミだけ。ヤミなら、回収方法はいろいろあるしね」 二日後に携帯電話が鳴った。主婦からだった。 「持って行きたきゃ、家具でも何でも持ってってよ」。返済が滞った客の自宅。福岡市の老舗の中小金融会社で働く三十代の店長が戸をたたくと、玄関に出てきた男性が言い放った。「五年もたてば時効やろ。弁護士入れたら、帳消しやしな。あんたらもやりにくかろうね」 督促状を出しても反応はない。電話も出ない。足を運べば居留守がほとんど。「借り手も、変わりました」。店長はため息まじりに話した。 貸し倒れは積もる一方だ。自己破産や、債務が減額になる調停も増え、弁護士の対応に追われる日々が続く。「顧客数はたかだか千件。このうち月三十件に弁護士が入る。もう先は見えません」 店の転機は二〇〇〇年六月。「金利の引き下げだった」と店長は言う。出資法の上限金利が約40%から現行の29・2%になった。会社が赤字に転じたのは翌月から。収益確保のためには融資を増やすしかない。「でも貸し倒れリスクを考えると、資金力のない中小零細は業務縮小しかない。新規融資はせいぜい月に二件。それが現状です」 この店長には忘れられない四十代の夫婦がいた。 二人はその日、店の窓口で千円札数枚を差し出した。返済期日だった。「手持ちがそれだけなら今日はいいから。カップラーメンでも買いだめして、とにかく食べて」。そう言って見送った。 深々と頭を下げ、玄関で振り返った二人の笑顔。それが店長が見た最後の姿になった。 夫婦は自分たちの借金のほかに知人の保証債務まで抱え、返済に追われていた。二カ月後に一万円入金されたが、その後自殺。残された日記には「優しくしてくれたのは店長の会社だけだった」とあったと聞いた。「自己破産すれば死を選ぶことはなかった。そんな二人にとってうちも助けにならなかった」 お金がある人は低い金利で借金できる。持たない人ほど、高利でしか借りられず、追い詰められる。そんな金融構造が生み出す闇が、業者も債務者ものみ込んでいく。 高利とわかっていても、ヤミ金融に手を出し、転落していく人々。そのほとんどが、銀行や消費者金融などに多額の借金を抱える多重債務者。すがるような思いで、自らヤミ業者にすり寄っている現状がある。借金返済のための借金。銀行を頂点とする金融ピラミッドの中で、複雑に絡み合い、無限に膨らんでゆく連鎖の構図を報告する。(西日本新聞) |